30話「真実を知る人」




 斎と最後にあってから数週間。
 夕映は、ジムのテニスレッスンを休んでいた。あのジムには、斎がよく来ているのだ。
 会うかもしれないとわかっていて、行くことが出来ない。
 斎と話をしてはっきりさせないといけない。
 そうわかっているのだけれど、いざ会おうとすると夕映の足は止まってしまうのだった。

 それに斎から何も連絡はなかった。
 いつも忙しくしている斎の事だ。前にも同じような心配している。だから、きっと突然やってくるのだろう。そう思っていた。
 けれど、最後に彼に会った時。夕映は激しく彼を拒んだ。
 もしかしたら、その言葉を聞いて自分の事を諦めて、会いに来ないのではないか。夕映はそんな風に考えてしまっていた。

 自分から「会いに来ないで。」と言ったのに。我が儘な考えだと夕映もわかっていた。
 けれど、もう会えなくなる。
 そう思ってしまう自分がいるのにも、夕映は気づいていた。

 今更気づいても、意味がないというのに。