斎と別れてから、夕映は依央と付き合った。
あの時も、斎と別れたことが寂しくて、忘れてしまいたくて、そんな気持ちのままの自分でもいいと言ってくれた依央と恋人になったのだ。
依央はとても優しく夕映を包んで、守り癒してくれようとした。
けれど、夕映の気持ちは変わることはなかった。
「今回こそ、私は依央くんに甘えない。斎との事がダメになっても。自分で乗り越えていくから。だから、ごめんなさい。」
夕映が小さく彼に向けて頭を下げる。
すると、依央は「僕が………。」と言葉を続けた。
「僕が、また甘えて欲しいって言ってもダメなんですよね。」
「……うん。今は、まだ斎への気持ちが強いから。……ごめんなさい。」
「わかりました。」
依央は残念そうな顔を見せながらも、少しだけ微笑んでいた。そして、頬を指でかきながら夕映を見た。
「きっといい返事がもらえないだろうな、とは思ってました。勘、ですけど。」
「………依央くん。」
「でも、どうしても夕映先輩への気持ちが諦められなくて。けど、」
「え?」
依央は先程までは照れ笑いを浮かべていたけれど、今は前回気持ちを伝えたときのように、真剣な瞳で夕映を見つめていた。
「今は、っていう事は、斎先輩を忘れられるときが来たら、また恋人になってもらえるかもって事ですよね。」
「え、えぇ……?!」
「僕、待ってますから。」
「依央くん、それは……。」
「だから、斎さんと恋人になれたら教えてくださいね。じゃないと、僕ずっと待ってなきゃいけなくなるんですから、ね。」
最後の言葉を言った後は、少しいたずらっ子のように企んだ微笑みを見てた依央を見て、夕映もつられて微笑んでしまった。
依央は、甘えてしまったり、逃げてしまったり、そして想いに応えられなくても、こうやって優しくしてくれる。
素敵な人に支えられていた事を改めて感じて、夕映は目に涙がたまっていくのを感じた。
それが流れてしまわないように、グッとこらえ、そしてにっこりと微笑み返した。
「ありがとう、依央くん。………本当に、ありがとう。」
夕映の瞳が微笑んだ時、一粒の涙だけがこぼれ落ちた。
けれど、夕映はそれを隠すことはしなかった。