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 夕映は目を開けた。

 昔の記憶を思い出して、涙が流れてきたのだ。斎との恋人だった時間を思い出すと、いつも泣いてしまうのだ。
 幸せだった気持ちも、思いが分からなくて不安になった事も、別れて寂しかった事も。全ては彼が好きだからだとわかると、また涙が出てきた。

 人は、他人に全ての事を話せなるわけではない。それは夕映だってわかっていた。
 けれど、大学になって初めて出来た普通の友達。夕映が社長令嬢だと知っても変わらない態度で接してくれた唯一の友人だった。
 それが夕映にとって特別で、大切にしたいと思えるのが南だった。


 そんな彼女に対しての斎の言葉。
 

 恋人としては、もしかしたら安心出来る言葉だったかもしれない。けれど、それがその人を傷つける言葉だとわかっているはずなのに、それを南に言ってしまった。
 彼が何の理由もなく言うはずはないと、夕映もわかっている。
 けれど、その理由がわからないからこそ、彼から話して欲しかったのだ。


 「話してくれないと、自分が納得出来ないだけなのかな。……でも、モヤモヤしたままでは恋人になんてなれないよね。」


 夕映は、そんな事を考えながら、ある事を考えていた。
 斎とはもう会わない方がいい。
 そう思っていた。

 斎は、自分の事を好いてくれている。
 けれど、夕映は答えを出せずにいて、いつも逃げてばかりいた。
 それは斎に対して迷惑じゃないかと考えていたのだ。いつまでも答えを出さないで待たせている事になる。前回も答えを出していたものの、しっかりと断ったわけではなかった。
 冷静になった状態で話をしよう。
 そして、恋人にはなれないと伝えようと心に決めていた。