斎は話せと言うけれど、彼に聞いたらば話してくれるのだろうか。
 けど、その答えが怖かった。
 彼を信じたい。彼を好きでいたい。どんな彼でも受け入れたい。そう思いながらも、心の中で何かがひっかかっていた。
 それでいいの?と………。

 そう考えているうちに、夕映は何故か斎にゆっくり近づき、そして自分から彼を抱きしめていた。
 
 優しく彼に触れた後、ギュッとすがるように彼を抱き締めた。
 

 「夕映………?」
 「………。」
 「おまえ、本当にどうしたんだ?」


 周りにはまだ学生も多くいる廊下。
 そんな場所で、夕映が甘えてくるのは珍しかった。それに驚き、斎は夕映は驚きながら夕映の頭を撫でた。


 「………斎。」
 「あぁ、何だ。」
 「………斎と話したい事があるの。」


 夕映は顔を彼のTシャツに埋めたままそう言葉を発した。呼吸をする度に彼のグリーンの香りが体を巡っていく。
 斎を感じられているはずなのに、夕映はとても切なくなってしまう。
 

 「わかった。場所、移動するぞ。」


 斎が夕映の頭をポンポンっと撫でた。抱きついていた体を離すのがとても悲しくて、夕映は斎を見上げた。
 すると、斎は「大丈夫だから。」と言いながら、夕映の手を優しく握った。
 彼の暖かい体温が夕映に染み込んでいく。
 ずっとずっと、こうしていて欲しい。そう思ってしまいながらも、夕映は予感していたのだ。
 自分から彼の元を離れていくのではないか、と。