そして、その日の放課後。
夕映は部活には顔を出さずに帰ろうとした時だった。
講義室を出てすぐの廊下の端に、今1番会いたくない彼が、立っていた。
腕を組んで憮然と立っている。
周りの女の子達は「斎くんだ。」「九条様だわ。」と、小さな声で騒いでいたけれど、夕映はその場から逃げたくて仕方がなかった。
普段ならば、すぐに彼の元にすぐに近づき、笑顔で「斎!」と名前を呼んでいただろう。
けれど、今は彼を見ることも出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「夕映。……何回も連絡したんだぞ。何で出ないんだ。」
「ご、ごめんなさい………。スマホの電源切ったままだったかも。」
「………まぁいい、行くぞ。」
夕映の手を取り、歩きだそうとする斎。
その手が夕映に触れた瞬間。
夕映は思わず手を払ってしまった。
夕映は自分の行動に驚き、そして、斎もまた払われた事に驚いた様子だった。
「おい………おまえ、どうしたんだ?」
「………今日は一緒にいかない。もう、帰る。」
「………体調でも悪いのか?なら、送る。」
「いい。」
「夕映。」
斎は少し強い口調で、夕映を呼んだ。夕映はその声で体を震わせた。
「なんで、俺の事を見ない?」
「………。」
「なんで、そんな顔してんだよ。……訳を話せ。」
自分がどんな顔をしているのかなんてわからなかった。けれど、きっと感情が抑えきれなくて酷い顔をしているのだろう。