スマホを見ると、もう講義は始まっている時間だった。遅れていく事も考えたけれど、きっと集中出来ないだろう。夕映はそう思って、ゆっくりと食堂に向かった。アイスコーヒーを飲み、少し落ち着こうとしたけれど、ただ呆然としていると、考え込んでしまう。
「テニスしようかな。」
体を動かせば、変なことを考えなくても済む。そんな風に考えた夕映は一気にアイスコーヒーを飲み干して、すぐにテニスコートへと移動することにした。
一人ではテニスは出来ないので、スポーツウェアに着替えて走ろうかなと、部室のドアを開けようとした時だった。
先に部員がいたようで、中から声が聞こえた。どうやら、少しドアが開いていたようだった。
少しドアを開けた瞬間。
「お前何言ってるんだ。」
「…………。」
部室から聞こえてきたのは、斎の声だった。
斎の声に返事をしているのは女の人の声。けれど、小さすぎて聞き取れない。けれど、夕映はそれが誰なのかすぐにわかった。
「斎と南ちゃん……。」
何故か斎は怒っているようだった。
どうして、そんなことになってしまったのか。夕映は動揺してその場に立ち尽くしてしまった。
「…………嫌いだ。もしそういう気持ちでいるなら、もう俺に近寄らないでくれ。」
部室から聞こえた言葉は、とても冷たいものだった。
斎がドアに向かって歩いてくるのがわかり、夕映は咄嗟に物陰に隠れた。
そして、しばらくその場から動くことが出来なかった。