けれど、その心配は杞憂だった。
「斎っ!これ、すごくいいかも!」
赤のドレスを着て、鏡を見た瞬間、夕映はすぐに試着室のカーテンを開けた。
すると、自分が選んだドレスを着た夕映を見て、斎はニヤリと微笑んだのだ。
「いいな、それ。」
斎は満足そうに微笑んでいた。
真っ赤なドレスは、着てみるとそこまで派手ではなく、黒よりも夕映の雰囲気に合っていた。髪をアップにすれば大人っぽく変身出来そうだった。
その後、花柄のドレスも着てみたが、それも予想以上に違和感なく着ることが出来て、夕映自身のファッションの幅が広がったように思えた。
その後、試着室を出ると、斎がドレスの会計を済ませて待っていた。そして手には大きな紙袋を持っている。
すぐに彼の車に戻り、2人きりになった瞬間に、夕映は斎に問いかけた。
「斎、ドレスありがとう。……でも、あんな高価なドレスを3着も買うなんて……。」
そう。斎は試着したドレスを3着とも買ってしまったのだ。彼がどれが1番いいと思ったのか、決めてもらうと思ったのだが、全部購入してしまっているのだから、夕映も驚いてしまった。お店にいるときは、動揺しないようにしていたけれど、すぐにでも彼に問い詰めたくて仕方がなかった。
「どれも似合ってたからいいだろ。それに……。」
「え?」
斎はスッと夕映に近づき、耳元で色っぽく囁いた。
「男がドレスをプレゼントするのは、脱がせたいからって言うだろ?」
「………なっ!!」
「帰ってからまた着てみてくれよ。……ま、パーティー当日の楽しみでもいいけどな。」
ニヤニヤして、楽しそうに笑いながら車のエンジンをつける斎を、夕映は顔を真っ赤にさせながら見つめるしかなかった。
けれど、そのドレスを着る日は訪れることはなかったのだった。