「村山君、また一緒のクラスだね?」

 教室でスマホをいじっていたら、女の声がして俺は顔を上げた。確か、田中という女だと思う。下の名前は知らないが。

「あ、そうみたいだね。よろしくね」

 と俺は作り笑いで返し、再びスマホに視線を戻そうと思ったのだが、

「3組に編入した村山幸子さんって、村山君の親戚の方?」

 と聞いてきた。早くも幸子の事が噂になってるらしい。俺はちょうどいいやと思い、その田中という女に、

「向こうで話しませんか?」

 と言ってみた。

「う、うん。いいわ」

 俺は顔を赤くしたその女と教室を出て、階段を半分だけ上がった。いわゆる踊り場だ。そこなら人目を避けられるからだが、見られても別に構わなかった。つまり、人目を避けるフリだ。

「田中さんは口堅い?」

「う、うん。堅いです」

「そうだよね。じゃあ、田中さんにだけ言うね。彼女はね、僕の妹なんだ」

「え? じゃあ、双子?」

「違うよ。腹違いの兄妹さ。あの子はね、父が昔浮気して、出来た子どもなんだ」

「うそ!」

「母が死んでまだ半年しか経ってないのに、親子でうちに来てさ、父は人がいいから、村山の籍に入れたんだ。村山の財産目当てに決まってるのに」

「酷いわ……」

「でも、幸子に罪はないからさ、仲良くしてほしいんだ。いや、そうでもないかな。彼女、見かけによらず計算高そうだしな」

 後半は、わざと小声で呟いた。田中という女が、ぎりぎり聴こえるぐらいの大きさで。

 これでよし、と。

 あの田中という女の口が堅いとは到底思えず、であれば、幸子の悪い噂は、たちまち噂好きな女の間で広まるだろう。うまくすれば、女達から虐められるかもしれない。

 俺は、幸子が涙をポロポロ零した顔を思い出し、ひとりほくそ笑むのだった。