このカフェに来てからかれこれ1時間が経とうとしている。日曜の昼下がりのカフェの中は、みんなどことなく眠たげで、ゆったりとした空気が流れている。
 そんな中で過去の異性絡みの話をする大人のカップルは、浮いているだろうか?

 道川佐央里さんに、ほんのちょっぴり焼きもちを焼いたのは事実。
 だって、こんなに女っ気のない研究者だよ?
 その彼が、たとえ10年も前のこととは言え、酔った勢いで後輩の女の子口説いたことがあるなんて。

「浩太郎!」
「はい!」

 私は改めて正座して、この真面目でチャラい(変な表現だけど)彼氏に向き直る。
 ハキハキと返事する眼鏡くんには、チャラさの影も今はないけれど。

「お酒を飲んだときに性格が豹変するっていうのは、よくわかりました。そしてだからこそ、お酒を控えているという事情も」

 真剣な眼差しで浩太郎は頷く。緊張した面持ちだが、私に理解してもらえて良かったという安堵も交じっている気はする。

「まずね、決してそんな浩太郎に幻滅したとか、嫌いになったとかそんなことは全然ないの」
「……良かった、そう言ってもらえて」

 浩太郎の緊張が弛緩する。
 安堵の息を大きく吐き、浩太郎は座卓の上の抹茶ラテを一口飲んだ。
 私は続ける。

「ちょっと今から変なこと言うけど、いい?」