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 浩太郎は苦いと思いながらも、水を途中に挟みつつ、ビールを飲もうと考えていた。
 今年新しく同じ研究室に所属することになった2年生たち8名は、男子学生も女子学生もすでにお酒に慣れているようにさえ見えた。
 しかしそこに疑問を覚える以上に、目の前にあるジョッキに苦戦していた。
 そんな浩太郎にまさかの指令が下る。

――悪名高き、一気飲みコールである。

 まさかこの名門大学の理系研究室の飲み会でそんな体育会系のノリになるとは。
 浩太郎はうろたえた。
 しかし、教授も助教授も先輩も同期も後輩も――皆に見つめられて、浩太郎は『ノー』という言葉を失った。

 ジョッキ一杯くらい大丈夫。

 根拠もなく自分に言い聞かせたのが間違いだった。
 何しろ、一気飲みで命を失う学生だって世の中には少なくない。
 これまでの人生を一瞬にして失うリスクもあったが、浩太郎には自分が『パッチテストはクリアしている』という自負が、一応はあった。

 そして狭い居酒屋の一角で、浩太郎は立ち上がり、周囲の声に合わせてグビグビ飲み干して――。