浩太郎は現在32歳。
 大学時代の話ということは、もうおよそ10年前のことか……。

「どんな風に言われたか、教えて?」

「『お前は飲んだ時だけ、えらくノリノリな男になるんだな』ってその先輩は言ってたんだ。それが僕が2年生……つまりはたちになって最初に飲んだときの出来事でね……」
「……人生最初に飲んだときからすでにそんな感じだったんだね……」

『ノリノリ』ぐらいで済めばいいけれど。

「浩太郎がもう飲まないって決めたのは、その時なの?」

 その問いに、彼はゆっくりと首を横に振った。何やら恥ずかしそうである。むろん、今日は会ったときからずっと恥ずかしげにしているのだが。

「その時は、『ああ、僕も人並みに飲めば酔ってテンションが上がるんだな』くらいにしか思っていなかったんだよね。でも、おおごとになってしまったのは、3年生のゼミ歓迎会の時だった」

 そう語り始めた浩太郎。周りのお客さんに聞こえていないか、そっと私は辺りを見渡す。大丈夫、みんな自分たちの話に夢中だ。

「そもそも僕はお酒があまり美味しいと思えなかったのもあって、自主的には飲まなかったんだ。でも、歓迎会に限ると、後輩の前でちょっと格好付けようと思ったんだよね。先輩面って言うのかな。他の上級生と同じように、飲めもしないビールをジョッキで頼んだんだ」