「い、嫌じゃないよ」
 か細すぎる私の返事に、
「聞こえない。もっと俺の耳元でしっかり言ってよ」
 そう囁き、私の顎に手を添え、親指で私の唇をなぞった。

 ゾクゾクッと、体中に電流が走った。
 何だろう、このときめきと、ハラハラ感!

 誰かがすぐそばで見ているかもしれないのに、というスリル。
 今の浩太郎の発言や行動はすべてお酒がさせている、という切なさ。

 それらを越えたところにある、私の甘やかされたい、溺愛されたいという乙女心。

 そうだ。
 今まで私がだらしないクズ男にだまされ続けてきたのは、自分に自信がないというのもあるけれど、私の心の奥底深くに潜む、「お姫様願望」のなせる失敗だったんだ……!

 小さな女の子から、大人の女性、そしてお婆ちゃん。
 か弱そうな女性、バリバリ働く強そうな女性。
 どんな女性の中にも、「お姫様になりたい!」という願いや望みは眠っている。

 それが強く表に出るか、心の深海に隠れているかの違いだけなんだ、と思う。

 そして浩太郎は今、ここ数年私が眠らせ凍らせてきた「お姫様願望」を再び、よみがえらせた……!