それでも、部活のない日やテスト期間は一緒に帰った。

「料理部は順調か?」

「バッチリだよ。あんまり活動してないけどね」

人差し指で頬を掻くサクラ。

なんでもないその仕草にも、俺は心奪われる。

「どうしたの?」

気付けば目の前にサクラの顔があった。

少しの間、ぼーっとしていたみたいだ。

「なんでもないよ。なんでも」

サクラは、慌てて繕う俺を不審な目で見る。

それでも並んで歩き続けた。

俺はどうしてしまったんだろう。

胸が高鳴っている。

隣にいる女の子をこの腕で抱きたい。

彼女と、いつまでも一緒にいたい。

そんな気持ちばかりが溢れてしまう。

葛藤に悩まされている間に、自分とサクラの家が数メートルにまで近付いていた。

「じゃあまたね、ヒロちゃん」

昔から変わらないその笑顔なのに、それは俺の中のサクラという存在を大きくしていく。

「ああ、またな」

俺が出来るのは手を振ることだけ。

もう1度、眩しい笑顔を向けると駆け出して、ドアの奥へと消えてしまう。

喪失感。

失望感。

……悲壮感。

いつの間にか、彼女と俺の離れ始めた距離が、速度を増していく感じがした。