3.友達

「瑠依」
「…」
「るーいー」
「…」
「るーいちゃーん!」
「もう、なに?」
ここのところ毎日。
転入生が話しかけてくる。
正直うんざり。
女子の目線が痛いし。
本当に嫌だ…
「あっ、やっと返事してくれた!」
「あなたがしつこいから」
「俺、あなたじゃなくて洸輝だよ?」
「だからなに」
「名前で呼んでよ?ね?」
いやだよ…
ていうか女子の目線に気づいて。
私の事めっちゃ睨んでるから。
はっきり言って私は悪くないよね…?
転入生が話しかけてくるだけじゃん。
「お前らー席付けー」
今日か担当の先生が入ってきたおかげで女子は自分の席へと戻って行った。

授業が終わり私はトイレへ行った。
前はトイレに行ったら水をかけられたことがある。
それがトラウマで学校ではトイレに行かなかった。
でも今日は我慢できない…
ーバタバタバタバタ
やばい。
と思った時には既に頭に水がかかっていた。
「きゃはははは」
「トイレ臭いから掃除しなくちゃね〜」
もう、最悪。
制服が水浸し。
もう今日は帰ろう。
そう思ってトイレを出ると
「瑠依?」
と声をかけられて腕を掴まれた。
どうして…
1番会いたくなかったのに。
そこに居たのは転入生だった。
「瑠依、どうしたの?」
「なんでも、ない」
「なんでもなくないでしょ?なんでそんなに濡れてるの?」
もうこれ以上話してたら泣いてしまいそうだった。
「なんでもないからっ」
そう言って私は走って逃げた。
転入生は追いかけてこなかったから良かった。
「ううっ…うっ、く…」
1度でた涙はそう簡単には止まってくれなかった。
なんで、どうして私ばっかりこんな目にあわなくちゃいけないの?
どうしてっ…
泣きながら私は家に帰った。
「瑠依!」
お母さんだった。
なんでこんなタイミングで居るかな…
いつもはいないのに。
「あなた学校は?なんで家にいるの?まさかサボり?はぁ。ほんとにしっかりしなさいよ…」
まずは疑いからはいるんだね。
私が濡れているのは気にしないんだね。
「サボりじゃ、ない。」
「じゃあなんでいるの?」
「トイレ入ってたら水かけられたから帰ってきた。」
「そんなことで帰ってきたの?」
そんなこと…?
トイレに入って水かけられるのがそんなことで片付けられちゃうの?
私の心配はしてくれないの?
「はぁ、結依を見習いなさい」
結依を見習う?
なんでよ…
私は私。
結依は結依でしょ?
「ごめんなさい」
「ほんとしっかりしなさい」
こんなこといつまで続くんだろう。
前に私がいじめられてるって相談した時もそうだった。
『あなたがなにかしたんじゃないの?』
『いじめられる方にも問題があるのよ』
で、片付けられた。
まずは私を疑った。
もちろん私の心配はない。
ひどいよ…
私、耐えられるかなぁ。
その日はそのままベッドに入って眠った。

「2人1組でペアを組んでくださーい」
出た。
今は体育の時間。
当然、ぼっちの私はペアを組む人なんていない。
でも今日は…
「神崎さん、一緒に組まない?」
クラスで1番美少女である一ノ瀬さんが話しかけてきた。
静かだけど浅く広く友達付き合いをしている感じ。
一ノ瀬さんは唯一私をいじめていない人。
クラスでいじめがあっても何もしない。
「ちょっと〜叶恋、何言ってんの?」
なんで私なんかと…
「私、神崎さんと組むからみんな先にやってていーよー!」
「私なんかといたらいじめられるよ?」
「私、そんなのどうでもいいんだ。ごめんなさいっ。今まで注意もしないでずっと見てるだけだった…」
一ノ瀬さんは頭を下げた。
「え…」
「ほんとにごめん。私、注意する勇気なくて…注意したら私がいじめられるかもしれない、そう思ったら怖くて何も言えなくて」
そうだったんだ。
「頭、あげて?一ノ瀬さんが謝ることないよ…」
「でもっ、ずっと1人で辛かったよね…ごめん。」
「今は、一ノ瀬さんがいてくれる。だからそんなに謝らないで?」
「ありがとう。私と仲良くしてくれる?」
少し鼻を啜りながら照れくさそうに聞いてきた一ノ瀬さん。
でも、私なんかと仲良くしたら今度は一ノ瀬さんがいじめられちゃうかもしれない…
「でもっ、私なんかと仲良くしたら…」
「私が仲良くしたいの。」
嬉しい…
私なんかと仲良くしたいと思ってくれる人がいるなんて。
「ありがとう。ありがとう、ほんとに。」
「お前らー話してないでちゃんとやれ!」
という体育担当の鬼教師に叱られて私達は顔を見合わせて笑った。
私、久しぶりに笑えたかもしれない。
一ノ瀬さんのおかげだね。