クラスメイトにバレないように必死に涙を拭っていると、不意に頭上から声が聞こえた。



誰?近くで聞いたことのない声。



でも、聞いたことのあるような……。



「なる、せ、くん?」




顔を上げると、そこには桐ヶ谷くんと同じくらい女子に大人気の成瀬くんがいた。




でも、桐ヶ谷くんとは違って爽やかな表情。




「泣いているみたいだけど、何かあった?」




「え、ううん。何でもない」



もしかして、心配してわざわざ声をかけてくれたの?



女子に人気の理由。
成瀬くんの場合、女の子なら誰にでも優しいから。



本当にその通りだ。今だって、ろくに話したこともない私のことを心配してくれるなんて。



「そう?なら良いけど。あ、そうだ。これからあの子達と食堂に行くんだけど、綾瀬さんも一緒に行く?」




成瀬くんの指さす方向には、こちらを見て笑顔を浮かべる女子達。きっと成瀬くんのファンの人達だろう。




成瀬くんが指をさす直前、睨んでいたのはきっと間違いじゃないと思う。



つまり、私には来て欲しくないと言うことだ。まぁ、そんなのあの子達の表情を見なくても分かるけど。



「良いよ、私は。一人でお弁当食べるから」




せっかくのお弁当が気まずさのせいで味わえないのも嫌だし、それでまた何かされたり言われるのも嫌だ。




本当は、こうやって声をかけられること自体危険なことなのに。




「ダメだよ。女の子が一人で食事なんて」



そう言って、成瀬くんはこちらを見ていた女子達の方へ歩いて行った。




何か話しているみたいだけど、少し離れているから会話の内容は聞き取れない。




やがて、女子達は少し悲しそうな表情を浮かべたまま去って行った。




え、何がどうなってんの?




「綾瀬さん!二人で食べよう!」



「えぇ!?」




な、成瀬くん大きな声で何ということを!




女子が見ているって!また何かされるって!私にとって、成瀬くんと昼食を共にすることの方がダメなんだよ!




「あ、みんな俺今日は綾瀬さんと食べるけど、意地悪しないでね。俺そういうことする子、嫌いだから」




成瀬くんがにこっと微笑むと、クラスの女子達は素直に「はーい」と返事をした。




凄い。成瀬くんの言うことなら何でも聞くんだ。




「これで大丈夫。さ、行こう」




優しく微笑む成瀬くんに戸惑いを隠せないまま、教室を出て行く彼に着いて行った。




って、どこに行くの!?