男達は桐ヶ谷くんがあっという間にやっつけてしまって、そしてあっという間に男達は逃げて行った。
こんなに呆気なくやられているのに、どうして何度も喧嘩を挑んでくるの?
今回こそは勝てるとか思っているのかな。
「おい。終わったぞ」
恐怖で蹲る私に、桐ヶ谷くんは手を差し伸べてくれた。
あんなに大勢に殴られかけたのに傷ひとつないなんて、この人一体何者?
まぁ、喧嘩の様子を見ていれば一目瞭然なんだけど。
それにしても、傷のひとつやふたつあっても良いのに。
「早く立てよ」
「あ、うん」
怪訝な表情を見せる桐ヶ谷くんの手を慌てて握った。
あんなに怖くて思わず腰を抜かしたのに、桐ヶ谷くんが手を差し伸べてくれた瞬間、そんな恐怖は嘘のように消えた。
どうして桐ヶ谷くんの手って、こんなに安心するんだろう。
「いつまで手握ってんだよ」
「へ、あ、ご、ごめん!」
私のバカ!いくら安心するからって、ずっと手握るとかありえないって!
恥ずかしい!恥ずかしすぎる!
……あれ?手を離そうと思っても、桐ヶ谷くんは手を離そうとしない。
そればかりか、強くなっているような?
「せっかくだし握ってろよ。お前、砂浜苦手だろ」
ドキッ
ふっと笑う桐ヶ谷くんの表情に、胸がトクンと高鳴る。
何なのよ、これ。
さっきからほんとおかしいって。
桐ヶ谷くんの手を握って安心したり、笑顔にいちいち心臓の鼓動が速くなったり。
この前まで何とも思ってなかったのに、空き教室で桐ヶ谷くんと出会ってから、様子がおかしい。
何故かドキドキする胸を必死に隠しながら、桐ヶ谷くんの後ろを歩いた。
この胸の音、桐ヶ谷くんに聞こえてないよね?