「なぁ、梨華。

今さらだけど、仕事を辞めて本当に大丈夫だったのか?」


俺の問いに、首を傾げる梨華。


「大丈夫って?」


「いや、ほら。

今住んでいるマンションの家賃とか光熱費とか。

食費やスマホ代が払えるのかなって、ちょっと心配だったから」


心臓がバクバクしていた。


俺がこんなふうに人を試すのは、初めてのことだったから。


俺の言葉に、少し目を泳がす梨華。


その表情って……。


やっぱり動揺しているのか?


「別に大丈夫よ。貯金はあるから」


口は笑っているけど、目が笑っていない梨華。


嘘をついているのは、一目瞭然だった。


じゃあ、俺がこう言えば。


梨華はなんて答える?


「そっか。それを聞いて安心したよ。

だったら、そんなに引っ越しを急ぐことはないよな。

つわりも終わって、安定期に入ってからにしよう。

俺、梨華の身体が心配だからさ」


俺がそう話すと、顔を歪める梨華。


再び、俺の膝に手を置いた。


「私なら大丈夫だから。

お願い。

ここに引っ越しさせて。

私、秀哉の為に毎晩ご飯も作るし。ね?」


あまりの予想通りの答えに、ため息が漏れた。


つまり、梨華は……。


もう自分で生活するお金がないんだ……。


「なぁ、もしかしてだけど。

梨華が仕事を辞めたのって……。

俺のことをあてにしてたから……?」