そう問いかけると、梨華は俺の膝の上に置いていた手をスッと自分の方へと戻した。


「さっきも言ったでしょう?

早く秀哉と暮らしたいから」


梨華は床に視線を落としたまま、俺の顔は見ないで言った。


一緒に暮らしたいと言われるのは、悪い気はしない。


俺も、梨華のあの部屋に行くのはもう嫌だったし。


でも、何かがおかしいと感じるんだ。


どうしてなんだろう。


なんでこんなに不安になるんだ?


「それはそうと、いつご両親に話すの?」


「え……?」


「秀哉ったらその話になると、いつも返事がないんだもの」


「ご、ごめん……」


梨華のお腹の子のことを、両親にどう伝えていいか迷って。


なかなか踏み出せなかったんだ。


でも、一緒に暮らすなら、これ以上引き延ばすことは出来ない。


「わかった……。今週中に連絡するよ」


「本当に? 良かったー。

これで入籍出来るわね」


「入籍?」


なんで、ここでいきなり入籍に飛ぶんだ?


そんなに急ぐ必要なんて、特にないはずなのに。


やっぱり梨華は、何かをすごく急いでいる。


まるで、何かに追われるみたいに。


「ん……?」


追われる?


も、もしかして。


いや、梨華に限って、そんなはずはない。


でも、もしそうだとしたら……?


俺は、少しカマをかけてみることにした。