「いらっしゃいませー!!」

深海の威勢の良い声がホールに響くと、客に笑顔を向けるさくらが店に入って来た。
深海が客を席まで案内すると、さくらはこちらへやって来た。

「光おはよ!!!」

「さくら、おはよう!今日も同伴かすっげぇなあ!」

「ラーメン食べてきた!めっちゃ美味しかったぁ~!!」

「あはは、さくららしいな」

「今度一緒に食べに行こう~!」

「いいねいいね」

「さって、今日も仕事頑張りますかー!
あ、光もう少しで2組くらい指名来るからね~!!」

「さすが!!」

光とさくらがいつから付き合いだしたかなんて知らない。
でもずっと光がさくらに好意を持っていた事は知っていた。さくらは知らない。さくらは明るくて誰にでも優しい奴だったけど、掴みどころのない奴でもあったわけだから。

「風紀……」

ぼそっと俺が呟くと

「さー仕事仕事」

光は聞こえない振りをして、そそくさとホールへ消えて行った。


どうして光がさくらに好意を抱いていたのを知っていたって?
俺もずっとさくらを見ていたから
けれど同じようにさくらを見つめる光の姿がそこにあった。

10代から長い事付き合ってきた菫と別れたり戻ったりを繰り返して
遊ぶ女なんて不自由していなかったから、微かに芽生えたこの気持ちなんて封印していればいいと思っていた。本気でそう思っていた。