痛いところを突かれ、言葉に詰まる。


「う……っ。だ、だって、しょうがないじゃん。一ノ瀬くんの寝顔が可愛いのが悪いの!」

「だから寝顔はお前の方が――」


私たちの言い合いがヒートアップしかけた時、存在を忘れかけていた森美鈴さんが顔を真っ赤にして「信じらんない! サイテー!」と叫んだ。

いまにも泣き出しそうな顔で震える彼女は、たぶん怒っている。


でも、ふと疑問に思った。

彼女は、誰の為に怒っているんだろう。

お姉さんの為か、自分の為なのか。


「千秋のバカ! クズ! 鬼畜! 大っ嫌い!」


それ以外にもたくさんの暴言を一ノ瀬くんに吐きながら、森姉妹の残った片割れも廊下を走り去っていった。


「あの……いいの? 追いかけなくて」

「はあ? 何で俺が追いかけなくちゃいけないんだよ」

「だって、彼女なんだよね?」