俺は、恋とかいうのが大キライだ。
周りで浮かれてる奴をみると、馬鹿らしくて笑えてくる。
だって、いつまでも同じ相手を好きでいるなんて無理がある。
いつか、相手を嫌いになるくらいなら、初めから好きにならなければいい。
どうせ、いつか終わりがくる関係なら…最初から出会わなければいい。
運命の赤い糸とか、一目惚れとか、そんなの信じらんねぇ。
…だって、この世界に“永遠”なんてありえないから……
ねぇ、葉月先輩。
永遠の恋とか、永遠の愛とかそんなの面倒なモノだと思ってた。
俺にとって、必要のないモノだと思ってた。
ねぇ、葉月先輩。
俺が先輩と初めて出会ったとき何を目にして、何を想ってた?
季節は、桜の花びらが舞う頃。
俺はキミに出会った。
「ねぇ、この子の花言葉、知ってる?」
「は?」
春のなまぬるい風が俺の首すじをなでては、通りすぎていく。
「だからさっ、スターチスの花言葉。」
何言い出すんだ、急に…
そんな事を思いながらも、あえて言葉にはせず、俺はただ首を横にふった。
「永遠の愛、なんだって。」
「……へぇ。」
それを聞いて、俺はどうしろっていうんだ?
「永遠の愛、素敵だと思わない?」
「……まぁ。」
「…あ、今、恋とか愛に永遠なんてないって思ったでしょ?」
「え?」
なんで分かるんだ!?
「確かにそうかもね。だけどいい言葉だと思わない?“永遠の愛”。」
「まぁ、言葉は…ね。」
「そうそう言葉は、ね!!」
そう言ってキミはあはは、と笑った。
「……でもさ、あたしもいつかできたらいいな…ずっと想われて、ずっと大好きでいつづける…そんな恋。」
あの時、キミはそう言って俺に笑いかけた。
なんだか、その優しくて柔らかい笑顔が、俺にとってはすごく…すごく、くすぐったかったんだ。
ねぇ、葉月先輩。
永遠の恋とか、永遠の愛とか…そんなの面倒なモノだと思ってた。
俺にとって必要のないモノだと思ってた。
ねぇ、葉月先輩。
でもさ、俺は………
それは、春の終わりに儚く閉じて、静かに咲いた…
“永遠の愛”
季節は夏、真っ盛り。
どこかからともなく聞こえてくるセミの声が、耳にまとわりついて余計に暑さを増す。
『先輩、約束ね?』
『うん…約束。』
あの日から1ヶ月程度が過ぎた。
あたし達は毎日一緒で、周りが羨むくらいのラブラブっぷり。
……ってわけじゃなく、
「なに?」
「へっ!?いや別に…なんでもない。」
なんて考えていたら優雅が不思議そうに顔を覗きこんできた。
「な~んだ、俺にみとれてただけか。」
「なっ!?何でそうなんの!?」
そう叫んで思わずハッとする。
しまった。ここが図書室だってこと、忘れてた……
葉月の顔はみるみるうちに赤く染まっていった。
そしてそれを見た優雅は、笑わせないでもらえます、先輩?と小声で呟きながらクックッと笑っている。
「~~っ!!」
あたしは、笑いを堪えきれずうっすら目に涙をためている優雅を横目に、無造作に転がっていたペンを再び手に取る。
「もう…ほら、早くっ勉強するよ!!」
「はいはい…で、これ何て読むんっすか?」
「どれどれ?」
そう言いながら、優雅が呼び指す先の難しい漢字に目をやる。
あたしの通う高校では、今週からテスト期間に突入している。
そのため、最近は昼休みにこうして一緒に勉強するのが、何故か日課になっていた。
「………くろうと?」
「なんで語尾にハテナがついてるわけ?」
「…だって…確定じゃないから…」
「俺より年下だっけ?それとも……年上だっけ?」
「ッ!!年上ですっ!!」
「あはは…んなムキになんなくたって…」
「~っ!!」
いっつもこうだ。あたしの方が年上で先輩なのに…
…いっつもからかわれる。
「だって先輩、反応が面白いからつい…」
「っ!?」
「葉月先輩の考えること、分かりやすすぎっすよ?」
優雅はそう言ってイタズラっぽく笑ってみせると、再び問題集に意識をもどした。
その横顔にドキッとする。
「ねぇ、優雅?あのね…」
「ん?なに?」
…優雅は、あたしのどこを好きになったの?
……なんて、名前を呼んでみたはいいけど聞けるはずもなく…
「やっぱ何でもな~い。」
「何それ?気になんじゃん。」
「まぁいいじゃん!!」
「…言わないとキスするよ?」
「は!?なに言っ…」
…と言いかけて、ハッとする。
しまった……。また優雅の思い通りの反応をしてしまうとこだった。
そう思い直し、いつもとは違う反応をするよう心がける。
「……いくら優雅でも、図書室だよ?人いっぱいいるのに無理でしょ。」
「ふ~ん……」
そう言いながら、優雅はまだ漢字がいくつかしか書いてないノートを手に取る。
…あれ?怒った?
「いくら俺でも……ね。」
「え…?」
次の瞬間―…
「ひゃ…っ」
「いくら優雅でも…ね。うん……確かに。」
そう言いながら優雅は、あたしの頭をぽんぽんと軽くたたいた。
「~~っ!?」
「ん?なに?キスされるとでも思った?」
「そっそんなわけないでしょ!」
そう言いながらも、きっと目は泳いでいるだろうと予想し、優雅から床へと目線を外す。
…が、すぐに視界が目の前にある本棚へとかわった。
最初は理解できなかった頭がはたらき、ようやく状況を理解する。
「……!?」
優雅があたしの顔をグイッと持ち上げた。
そして、2人の唇が軽く触れ合う。
「……ッッ!?」
「……まだまだあまいっすね、葉月先輩。」
そう言うと、優雅は口元をあげてふっと笑った。