「っ、はぁー…」


自分の部屋に入って引き戸を閉めた途端、私は自分にまとわりついていた恐ろしい程の緊張感が薄れて無くなるのを感じた。


キムさんの姿を見たのは短時間なのにも関わらず、普通の人よりも遥かに緊張度が高くなっているなんてどうかしている。


(あー、もう何でこうなるかな、)


制服を脱ぎ、昨日と同じ部屋着に着替えながら、私は独りごちた。


(身体は震えるわ、鳥肌は立つわ……私、まともにキムさんと話せるかな…?)


さすがに、彼には私に良い印象を持ってもらいたい。


その為にも。


(何があっても、お父さんの事なんて想像しない)


私が今から話す人はキムさんであって、“お父さん”ではない。


(だから…)


「…大丈夫」


そう、私は心の中で何度も繰り返して。


いつの間にか畳んでいた制服を部屋の端に置いて、私はゆっくりと引き戸を開けた。



「お…早かったね瀬奈。じゃあ、こっちに座って」


私が俯いたままリビングに入ると、それまで小声で何かを話していた2人は瞬時に黙り込み、私に向かって笑顔を向けてきた。


「…うん」


言われるがままに、私は自分の椅子に座ったけれど。


俯いていた顔を上げ、前を見て、息が止まるかと思った。