(挨拶、しなきゃ…)


(良い子に見られなきゃ)


何故か、こんな時に限って昔に前のお父さんからしつけられた内容が頭の中を支配する。


『良い子にしてないと、お前は捨てられるよ?俺らはいつでも、お前を捨てられるんだ』


という、あの教えが。



「…こん、ばんは……」


だから、私は俯いていた顔を上げて声を絞り出した。


(大丈夫大丈夫)


私の目線の先には、優しそうな笑みを浮かべた“キムさん”とお母さんが居て。


「っ……」


お母さんの優しい笑顔は、私に“大丈夫だよ”と語っている様な気がして。



そして。


「初めまして。今度から、君のお義父さんになります」


まだ、私は何も言っていないのに。


“キムさん”は、笑顔で私に向かってそう言ってきた。



「あっ……」


思わず、目を逸らしそうになる。


急過ぎる展開に、2人に向かって何て言えば良いのか分からない。


再婚する話は一応承諾していたけれど、今の私の口からは言葉が一切出てこなかった。


そんな私を見たお母さんが、


「優作(ゆうさく)、それは唐突過ぎじゃない?瀬奈も困ってるよ。瀬奈、先に着替えておいで。ね?」


とフォローしてくれなかったら、私は直立不動のその体勢を3時間程続けていた事だろう。


その言葉を聞いた私はこくりと頷き、弾丸の様な速さで自室へ駆け込んでいった。