(あっ……)


知らない男の人の声が聞こえた途端、私の身体中に鳥肌が立つ。


前のお父さんによって何度も感じ続けたこの感情は、恐怖。


(あれ、何で……?)


お母さんの好きになった相手だから、恐怖なんて感情が芽生えては駄目なのに。


(おかしいな)


自分の身体の中から出るキムさんへの拒否反応に早くも気付いた私は、動揺しながらもリビングへ向かった。



玄関から大股3歩歩いただけで辿り着くリビングのテーブルには、既にお母さんとキムさんらしき人が隣同士で腰掛けていた。


「あ、えと……」


2人に向かって何と話し掛けていいか分からない私。



「こんばんは、瀬奈ちゃん」


そんな私に至って普通に話し掛けてきたのは、キムさん本人だった。


(ひっ……)


その声にびくりと身体が震え、私は思わず下を向いた。


何故、私が彼に怯えているのか分からない。


(大丈夫、この人は違う)


頭では違うと分かっているのに。


彼が、前の“お父さん”ではないと分かっているのに。


つい先程、自分で自分に気合を入れたはずなのに。


(っ、おかしい、な…)


鳥肌は、何とか治まってくれた。


それなのに、身体の震えが止まらない。


本当は、彼と会うのを少し楽しみに帰ってきたはずだったのに。