(でも…)


「もし、したら…?」


私の消え入りそうな問いに、お母さんは口角を上げて答えた。


「もしキムさんが瀬奈にそんな事したら、すぐに警察に通報するから。…前みたいに私だけが気付かないなんて事、絶対に無くすからね」


お母さんの声は、若干だけれど震えていた。


やはり、お母さんも思い出したのかもしれない。


離婚したお父さんの、恐ろしい本性を。



そこまで聞いた私は、ゆっくりと頷いた。


「…その、キムさん?が、本当にお母さんを大切にしてくれて、DVも無いって言うなら……私は別に、構わないよ」



と、口先では伝えたけれど。


実際の所、


(信じていいの?)


(本当に大丈夫?)


(……やっぱり、少し怖いな…)


と、疑ってしまう部分もあって。



そんな私の表情に気付いたのか、お母さんは口元に笑みを浮かべて私に話し掛けた。


「大丈夫、安心して。瀬奈がきっとそうやって心配すると思ったから、明日、キムさんを家に連れて来るね」


(そっか、明日…)


明日。


あした。


アシタ。


あ、し、た。


(んっ!?明日!?)


長い間を空けて、ようやく分かった“明日”という言葉の意味。


その衝撃的な一言に、私はぎょっと目をむいた。