不思議な顔をして、柴山は顔を仁に近づけた。

 仁は、こわばった顔で、豹と狼の話を持ち出した。

 そして豹と狼が人間に化けているということを教えた。

 荒唐無稽な話に、いきなり柴山は笑い出した。

「何かと思えば、こんなことか。もうこの話は都市伝説みたいになってるのか」

「違うんだってば、もう、折角本当のことを言ってるのに」

「でもそれがどうしてユキちゃんと関係あるんだ?」

「だからそれがユキの家に住んでるんだよ」

「えっ?」

 柴山の顔つきに変化があった。

 ジーンズの後ろのポケットからメモ帳を出してぶつぶつと言っては何かを確認している。

 仁はじっとその様子をみていた。

 そしてテーブルにコーヒーが静かに置かれ、仁がコーヒーにミルクを入れて飲もうとしたときだった。

 柴山が口を開いた。

「実はさ、色々調べてたんだけど、どうも目撃情報がユキちゃんの家のあたりに集中してるんだ。しかも黒豹と狼が猛スピードでユキちゃんの家に走っていったっていう目撃証言も聞いたんだよ。もしかしたら、ユキちゃん、黒豹と狼を飼っているんじゃないかって、俺も思いだしてね」

「飼ってるんじゃなくて、一緒に住んでるんだってば。それがトイラとキースなんだってば」

 柴山がいつも何かに目を光らせてるといっても、非現実的な出来事はすぐには信じられないようだった。

 仁はなんとか信じて貰おうと躍起になった。

「そりゃ、なんかあったら教えてくれとは言ったけど、それは俺をからかってるんだろう。それにそれが仮に本当のこととしても、仁は友達の秘密をばらして裏切ってることになるぞ。そんなこと友達なら普通しないぞ」

「だから僕は本当に裏切ってるんだよ。トイラとキースが邪魔なんだ」

 仁の真剣な表情に柴山は複雑な顔をしていた。

 どうも嘘を言っているようにも思えなくなってきた。

「だったら、ほんとにそうなのか、証拠でもないとなあ。俺がこんな状態で記事にしても誰も信じないよ」

「いい考えがある。その証拠をみせるよ」

 仁はコーヒーを一気に飲み干した。

 カップをソーサーに置いたそのとき、その表情はもう少年の持つあどけなさが消えていた。

 大人びた表情で、これから罪を犯すことを十分に告知していた顔だった。