「そっか、だからトイラは頑なに拒否をしたんだ。でも、いいや。トイラが私のことずっと感じてくれるのなら、それで私は幸せだ」

「僕はトイラが君を助ける方法を見つけて欲しいと願ってる。それに大蛇の森の守り主が言っていた。トイラならわかるって。だから僕は助かるって信じてるよ」

　キースはなんとかフォローをしたかった。

　でもユキはもう覚悟を決めていたのか、すっきりした笑顔を向けた。

　そして急に走り出した。

　キースもその後をついて行く。

　キースがユキをちらりと見れば、ユキの頬の涙の痕が光っている。

　それはキースに罪悪感を植えつけた。

「ユキ、風に乗らないか？」

　キースが突然言った。

「ん？　風に乗る？」

　キースはユキを素早く抱きかかえた。

「ちょっと、何すんのキース」
　猛スピードで駆け抜けていく。そして塀にジャンプして家の屋根に飛び乗った。

「えっ、どこ走ってるのよ。ありえない」

　屋根から屋根を飛び移って、すごい速さで駆けていく。まるで飛んでるみたいだった。

「ユキ、ほら前を見て、ユキは今、風と同化してるよ。明日は明日の風が吹くように、ユキもきっとなるようになるんだ。だから悲しまないで。トイラが必ずなんとかしてくれるから」

　ユキは、目の前に広がる建物の屋根と空を見つめて、風を一杯受けていた。

　すがすがしい風はユキの心のもやもやを吹き飛ばしてくれるかのようだった。