「へぇ、ここが仁の部屋なんだ。意外ときっちりと片付いているんだ。あっ、こんなところにも手作りの置物がある。かわいい」

 机の上に飾られたパッチワークの熊のぬいぐるみをユキは見ていた。

 仁はベッドに腰掛けて、ため息を一つついた。

「ごめんよ、うちの母、すごく脳天気で。なんでも思ったことを考えずに言っちゃうから、もし気を悪くしてたら許して欲しい」

 仁は、ユキの胸の痣のこと気にしていた。

「ううん、全然そんなことない。私、仁のお母さん大好きよ。今日、初めて会ったお父さんも気に入っちゃった。なんて素敵なご夫婦なんでしょう。仁はとても素晴らしい両親の間に育って、だからこんなにもいい人なんだね」

「ユキ、僕は、いい人でもなんでもない」

 良心の呵責からユキの言葉を素直に受け入れられない。

 突然、吐き捨てるようにジンは叫んだ。

「どうしたの、仁」

「あっ、ごめん。ちょっと自分が嫌になるときがあってね。それでつい」

 仁は、これから自分が何をやるか充分わかっているために、ユキの言葉に冷静になれなかった。

 ユキは仁を優しい眼差しで見つめていた。

 『仁はいい人だよ』と目で言ってるようだった。

 仁もユキを見つめ返した。そしてベッドから立ち上がり、ユキに近づく。

 いつもと様子が違う仁に、ユキは急に落ち着かなくなった。

「仁、どうしたの。やっぱりおかしいよ?」

 仁は、突然、力強くユキを抱きしめた。

 咄嗟の事で、ユキは抱かれるままに動けなかった。