「ユキ……どうした?」

 トイラは呆然としてしまう。

「トイラ、私何もかも思い出したの。あなたがこんなにも大好きだったこと、やっと思い出したの。どうして、どうして何も言ってくれなかったの。なんで今まであんな冷たい態度を取ったのよ」

 ユキは泣きじゃくっていた。

 キースは二人の邪魔をしないように、そっと階段を降りていく。
 
やっとふたりの気持ちが重なった。

 自分のことのように嬉しかった。

「ユキ……」

 トイラは少し逡巡するも、ユキの記憶が全部戻った以上、もう自分の気持ちに嘘がつけなかった。

 ユキの記憶が戻ったことはやはり嬉しい。

 顔をほころばせて、ユキの気持ちを素直に受け入れた。

 しっかりと自分の腕でユキを力強く抱きしめ返していた。

「ユキ、すまない。こんなことに巻き込んでしまって。俺、ユキを助けたくて、ユキの記憶がないのなら、嫌われた方がいいって、逃げてしまったんだ」

「トイラの馬鹿! どれだけ苦しかったと思ってるの。記憶がなくても、トイラを思う気持ちは同じだった。もう睨まないで、そして冷たくしないで。お願い」

「ユキ、ごめん」

 二人はどれだけ抱き合っていただろうか。

 下からキースの声がする。

「コーヒー作ったけど、ちょっとブレイクしたら? いつまでそのままで抱き合ってるつもり?」

「あともうちょっとだけ」

 そう答えたのはユキだった。