胸の痣によって、ユキの閉じ込められていた過去の記憶が夢の中で徐々に蘇る。

 ユキは思いだす。

 トイラ、キース、ジーク、そして白い大蛇の事を。

 赤黒い光がどんよりと広がる空間、そこは地下水で浸食された洞窟、鍾乳洞のようだった。

 空間まで侵食されているのかねじれた歪みをもっていた。

 ゆらゆらと輪郭がぼやけた大蛇の頭が、ユキの目の前に現れた。

「誰だ、私の眠りを妨げるものは」

 大蛇は居丈高に振舞う。

 キースは恐れのあまり震え上がっていた。

 もし狼の姿なら、確実に尻尾が垂れて後ろ足の間に挟まっていたことだろう。

 トイラは、声が出ないほど森の守り主の威厳に圧倒されていた。

 トイラが豹の姿ならば、尻尾が膨れ上がっていたことだろう。

「そこに居るのは、トイラとキースだな。そしてこれは人間」

 ユキは大蛇の顔の真正面に居た。

 大蛇の口から先が二股に分かれた細い舌が、ユキをあざ笑うかのように、チョロチョロと出たり入ったりしている。

 そしてユキの頬に舌の先が触れた。

 布で軽く触れたような、くすぐったいものだったが、鳥肌が立ち体の震えが止まらなかった。

 ユキは悲鳴を上げたくなる気持ちを必死に堪えて、ごくりと唾を飲み込んだ。

「お願い、食べないで下さい」

 ユキがそうつぶやくと大蛇は笑った。

「ははははは、私がお前を食べるだと」

 ユキはそっと地面に降ろされた。

「えっ?」

 大蛇の様子が一変する。

 慈悲を与えるような優しい眼をしていた。

 それでも威厳ある気品が十分伝わる。