「やあ、邪魔するつもりはなかったんですが、つい見ちゃいまして、目が離せなくなりました」

 気まずそうに、木の陰から、黒マントをなびかせてひょろひょろとした細面の男が現れた。

「ジーク。お前この森に戻ってたのか」

「一時は虐められて出て行ってしまいましたが、心を入れなおして戻ってきましたよ」

 立ち直ったところを見せようと、背筋を伸ばして胸を張っていた。

「誰?この人。トイラと同じ仲間?」

「申し遅れました、人間のお嬢さん。私はジークといいます。コウモリです」

 礼儀正しくお辞儀して、気弱な笑顔を見せていた。

「コウモリ?」

 ユキがそういうと、ジークはぱっとコウモリに変身して羽をパタパタさせ宙を飛び、またすぐに人の姿に戻った。

「トイラが人間に恋をしている噂は本当だったんですね。遠い森でも耳に入ってきましたよ。ちょっとした笑いものになってますけど」

「うるさい! そんなことを言うために戻ってきたのか」

 トイラが牙をむき出して飛び掛りそうになると、ジークは怖がって後ずさりした。