秋の終わりから冬になろうとしていた深い森の世界。

 紅葉の落ち葉の絨毯。木枯らしが吹き、日が落ちれば息が白くなる寒さ。

 動物たちも活動を萎縮し、冬眠したりと、静かで物悲しい雰囲気が漂う。

 誰も居ないひっそりと静まり返る不穏な薄闇で、小さな影がピョンピョンと跳ねるように動いている。

 黒豹の姿のトイラは物陰からその影の正体を探ろうと、しなやかな物腰で少しずつ近づいていた。

 暫くその影を見ていたが、突然視界から消えた。

 鼻をヒクヒクすれば、確かに何かがいる。

 それを突き止めようと鼻に頼って歩いたその先に、少女が落ち葉の上でうずくまって寝ているではないか。

 それがユキだった。

 トイラは首を傾げ、周りをのそのそと回ってあらゆる角度からユキを観察する。

 人の子がこの森に何しにきたのか不思議に思ったとき、森が蠢きトイラに語りかける。

『お前の必要なもの』

 森がこの子をここへ導いてきた?

 自分に必要なもの?

 トイラはじっとその小さな子を静かに見つめていた。

「このままでは寒さで死んでしまう」

 そう思うと、トイラはユキの体をくるむように隣に横たわった。

 一晩ずっと側に付き添い、ユキの体を温めてやった。

 トイラもまたユキの温かさが心地よかった。喉が自然にごろごろ鳴り出した。