遠くで仁とユキが手を繋いでいる。

 トイラ自身が選んだ道とはいえ、皮肉にも仁がユキをさらっていき、事の運びが上手く行き過ぎて苦虫を噛んだような顔をしている。

 エメラルド色の瞳は絶望と虚しさ、そして怒りが渦を巻いてどんよりしている。

 どうして自分は普通の人間じゃないのだろうと自分の手をじっと見ては、猫が隠していた爪のごとく、突然鋭くシャキーンと爪を尖らせた。

 そしてまたすっと引っ込めるように人の手に戻した。


 人間だったら良かったのに──。

 そう思ったのはこれが初めてではなかった。

 過去にユキと出会ったことをトイラは思い出す。

 あの時出会ってよかったのだろうか、でも出会わなかったら──。

 遠い目になりながら、トイラは昔のことを想起せずにはいられなかった。

 ユキと過ごした楽しかった思い出。

 今はそれを思い出すことで自分を慰めることしかできなかった。

 無駄なことと思いつつ、ユキへの思いがどんどん募る自分に嘘はつけなかった。

 このとき暫く、その思いを抱いて辛い現実から逃げたくなった。

 トイラは過去を振り返る。

 それは子供のときのお気に入りの絵本を引っ張り出しては、懐かしんでぱらぱらページをめくる、そんな気持ちだった。