翌日、トイラとキースがキッチンに下りて来れば、いつも朝食の支度をしているユキがいない。

 代わりに、テーブルの上に、トイラの大好きな焼き魚とキースの大好きなベーコンが、ご飯と味噌汁と一緒に添えられていた。

 弁当も二つ布にくるまれて、家の鍵も並んで一緒に置いてあった。

 トイラとキースはお互い顔を見合わせて渋い顔つきになっていた。

「ユキ、まだ怒ってるのかな」

 ベーコンをつまみキースが言った。

「怒ってねぇーよ。怒ってたら、朝食なんて作んないよ。しかも俺達の好物なんか置いてさ」

 トイラは焼き魚をじっと見つめていた。

「だよな。だったら早く食べて、学校行こう。この間になんかあったら大変だ」

「ああ」

 ユキが朝食を準備している姿を想像しながら、トイラは魚をぱくついた。

 ユキの優しさが身に沁みる。

 自分の中途半端な態度がユキを混乱させ、些細なことですれ違い続ける。

 トイラは自分の置かれている立場を一層強く考えてしまう。

 ユキを好きな気持ちを封印せねばならない。嫌われた方がよっぽど楽だ。

 トイラは思いを断ち切る覚悟を決めて、目を閉じて魚の骨を力強く噛み砕いていた。

 トイラは自分の背負ってるものが重過ぎて、逃げてしまう事を選んでしまった。