夕暮れ時、ユキは仁の自転車の後ろにおぼつかなく乗っていた。

 車通りからはずれ、田んぼや畑が広がる中、仁は力強くペダルを漕いでいる。

「ユキちゃん、もっとしっかり捕まって。それじゃ落ちちゃうよ」

 仁は『春日さん』から『ユキちゃん』と呼び方を変えていた。

「だけど、ふたり乗りしていいの?」

 ユキは気が気でない

「車も来ないし、人もあまり居ないから大丈夫だよ。だからしっかり捕まって」

 ユキは言われるまま仁の腰辺りを強く抱きしめた。

 仁はドキッとして、更にペダルを漕ぐ足に力が入った。

「今日は来てくれてありがとう。母は息子より娘が欲しかったんだ。いつも文句言うんだぜ。かわいい服が作れなくてつまんないって。だからユキちゃんの服作れるのすごく嬉しそうだった」

「新田君のお母さん、本当に素敵だね。私とっても好きになっちゃった。招いてくれてありがとう」

 ユキの言葉が嬉しく仁は気が大きくなっていく。もっとユキと仲良くなりたい。

「ねぇ、僕のことも『仁』って呼んでくれない? アメリカではファーストネームで呼び捨てだろ。僕も話聞いてたらアメリカの習慣とか憧れちゃったよ」

「じゃあ新田君も…… あっ、仁も私のことユキって呼び捨てにしてくれていいよ。その方が耳に慣れてるし」

「あっ、わ、わかったよ。ユ……キ……ヘヘヘ」

 嬉しさと恥ずかしさと戸惑いで仁はどもってしまう。

 照れくさくて笑ってごまかしていた。でも呼び捨てにできるのが嬉しくてたまらない。

「あのさ、もし、もしもだよ。ユ、ユキ……が学校で困ってることがあったら、僕に言ってね。絶対、ユキの力になるから」

「ありがとう」

 仁には虐めの事がばれている。でも、却ってユキの気が楽になった。