離れることだけを考えて、ユキは行き場を失い仕方なく、非常階段の踊り場に立っていた。

 爽やかな風が心地よく吹いて、髪をさらっとなびかせる。

 風が慰めてくれているように思え、幾分気持ちが紛れた。

 次の授業までまだ時間がある。それまで手すりにつかまりながら空を仰ぐ。

 人に疎まれるのは今に始まったわけじゃない。

 どこに居ても気に入らないことは常に付きまとう。

 父の仕事の都合でアメリカに渡った小学生の頃。

 英語なんて何にもわからなかった。

 あの頃も疎外感一杯に、みんなの輪の中へ入っていけなかった。
 怖かったのだ。

 言葉が思うように話せなくて馬鹿にされ、特別釣り目でもないのに、アジア人を見れば目を吊り上げてからかわれた。

 特に気の強い目立とうとする子供たちは、面白がってそういうところを集中的に弄る。

 どこに居ても、人というものは受け入れがたいものが現れたとき、異物として拒否反応を引き起こしがちだ。

 取り入れて仲良くしようなんて思うのは、よほどできた人間か、それとも好奇心旺盛の物好きなタイプだろう。

 自分の気持ちに正直で、感情をコントロールできない子供は意地悪さが先に優先され、そこに習慣や文化の違いが入ると摩擦が起きやすい。

 衝突しながら子供は学んでいくのだろうが、言葉の壁があると怖じ気ついて逃げてばかりだ。

 受け入れてもらえないと思えば思うほど、自分は人とは違うのだからと殻に閉じこもってしまっていた。

 他の人と違って何が悪いんだろう。

 ユキは環境の変化で、自分のアイデンティティの確立が上手くいかなかった。