『凌馬...』
ユウの顔が固くなった。
考えてるようだ。
でも、すぐにユウは僕に笑いかけてくれた。
『お前の好きになった人。絶対いい女なんだろうな』
優しい言葉。
『あぁ、すごく素敵な人だよ』
『お兄さんは知らないんだよな?』
『もちろん...あの2人は知らないよ、僕の気持ちを』
『この先は?』
『...わからない、でも、何かが違うんだ、今までとは』
あの女性の存在をユウに言うべきか。
『最近、やけにお前の気持ちが乱れてるなって思うよ』
その言葉を聞いて、僕はユウに、兄さんと女性のことも話そうと思った。
兄さんと女性のことを話したら、ユウはさらに驚いた。
そりゃそうだよな、こんな話し、身内の恥だ。
兄は浮気、弟はその奥さんを想ってる。
驚くよ、普通。
『凌馬...俺にその人を紹介して欲しい』
『え?姉さんを?』
『お前が好きになった人、会ってみたい』
突然でびっくりしたけど、ユウになら、会ってもらいたいって思った。
あの人がどれだけ素敵な人か、ユウにも知ってもらいたい。
僕は、これからどうするべきか、ユウなら何かアドバイスをくれる気がしたんだ。
それくらい、僕はもうどうしたらいいのか、わからなくなっていた。
『いいよ、姉さんに言ってみる。友達に会って欲しいって』
『凌馬の好きな人に会うの、楽しみにしてる』
その言葉が、後になって、僕をさらに苦しめることになるなんて、その時は、思いもしなかったんだ...
そのまま、僕達は別れた。
次は、別々の授業だ。
授業が終わったら、姉さんに連絡してみよう。
僕がとても頼りにしていて、大事な親友のユウに、早く会ってもらいたいから。
素敵な人を好きになったんだなって、ユウに言ってもらいたいのかも知れないな…僕は。
友達を紹介したいって言ったら、早速、姉さんは僕らを家に招いてくれた。
ユウと2人で行ったら、兄さんがいた。
少し驚いた…
『兄さん、今日、仕事は?』
『今日は思いのほか早く済んだんだ。ユウ君、久しぶり』
『お邪魔します、本当にお久しぶりです』
『はじめまして、ユウ君?凌馬君の義理の姉に当たります、愛美といいます。よろしくね』
義理の姉。
これも好きじゃない言葉。
『ユウ君、相変わらずイケメンだな、女の子にモテて仕方ないだろ』
兄さんが、笑って言った。
『お兄さんみたいなタイプの方がモテるんじゃないですか?愛美さんも心配ですよね?』
ユウは、兄さんを試してるのか?
それに、愛美さんって...
いきなり馴れ馴れしい。
『本当にユウ君、背も高いし、モデルさんみたいね』
『嬉しいです、一応、モデルもやってます、バイトですけど』
『すごいのね、今度雑誌買うから、教えてね』
姉さん、なんだかはしゃいでる?
『ありがとうございます。凌馬もモデルやらないかって誘われてるんですよ、でも絶対やらないって。大学にはファンもたくさんいますし、凌馬はすごくモテるんです』
『ちょっ、何言ってるんだよ、ユウ』
『そうなんだ、ファンがたくさんなんて、凌馬君もすごいのね。モデルのお仕事にも挑戦してみたら?』
『凌馬がモデルなんて、無理だろ』
馬鹿にしたように、兄さんが言った。
『僕は、人前でポーズ取ったりするのが苦手なんだ、嫌なんだ、派手な世界は』
『こんな調子です、いっつも。宝の持ち腐れですよ』
姉さんは、どう思ってるのか?
僕は、ユウほどではないけど、たまに女性から告白もされる。
誘いもある。
でも...僕は、ずっとずっと姉さんのことだけを思っているんだ。
姉さんが、食事を振る舞ってくれ、その後、みんなでコーヒーを飲みながら会話した。
ユウは、本当に人懐っこい。
誰とでもすぐに仲良くなれるのが、ユウのいいところだ。
『凌馬、お前、ディズニーパークに行ったことあるか?』
唐突な兄さんの質問。
『突然どうしたの?』
姉さんが切り返す。
『いや、ディズニーシーのチケットを3枚もらったんだ。同僚が抽選で当たったらしいんだけど、いけないからって譲ってくれたんだ。奥さんと行って来て下さいって』
『ディズニーパーク?行きたいわ』
姉さんの言葉に、僕は動揺した。
兄さんと行くのか?
『凌馬、お前、愛美を連れて行ってやってくれないか?ほら、俺はテーマパークも人混みも苦手だから』
えっ...
嘘だろ?
心臓がドキドキ言うのを、僕はハッキリと感じた。
『そんなこと、凌馬君に頼んだら迷惑だわ。大丈夫よ、私、1人でも全然平気だから』
姉さんは、本当に申し訳なさそうに言った。
『愛美さん、だったら、凌馬と俺がエスコートしますから、一緒に行きましょう。お兄さん、僕にも1枚譲ってもらっても大丈夫ですか?』
『いいのかい?ユウ君。助かるよ、愛美のことよろしく頼む。凌馬も』
ユウ?
3人って...
なんだか、しっくり来なかったけど、姉さんが1人でって言ったから、慌てて、僕が行けるように計らってくれたんだよな。
そうだよな。
『凌馬、お前もディズニーパーク行きたいって言ってたよな?良かったな』
ユウが言った。
『そうなの?でも、やっぱりディズニーパークは彼女と行きたいわよね。私なんかじゃなくて』
姉さんと2人で行きたい。
そう言いたかった。
『ディズニーパーク、ホテルコスタミラ、1泊朝食付き。凌馬、ユウ君、楽しんで来て』
宿泊!?
姉さんとユウと3人で宿泊するのか?
聞き間違いかと思った。
『宿泊なら、余計に2人に迷惑だわ』
『愛美さん、僕ら2人とも彼女いませんし、タダで行けるなら、迷惑じゃないですから、ぜひ行きましょう、俺、車出します』
『頼もしいな、ユウ君。凌馬もいいだろ?』
『...ああ、いいよ、ずっと行きたいって思ってたから』
姉さんと...
『じゃあ、早速いろいろ決めましょう』
ユウは、段取りがいい。
兄さんは、先に休むと行って、リビングを離れた。
何で、兄さんはこのチケットを僕に譲った?
しかも宿泊。
僕と姉さん2人きりで行くことになっても、心配じゃないのか?
ゴールデンウィークの2日間のチケット。
兄さん、何かあるのか、この日に、何か。
僕は、兄さんの本意がわからないまま、楽しそうに話している姉さんとユウの会話の中に入った。
『愛美さん、これ見たら、ホテルが一部屋なんですけど、3人で同じ部屋で大丈夫ですか?』
『そうなの?私は大丈夫だけど…でも、2人は嫌よね。私がもう一部屋取るわね』
『いいですよ、俺らは。愛美さんがいいなら。な、凌馬』
『え?別に大丈夫だよ、姉さんがいいなら』
『ごめんね、おばさんが1人混じるけど、許してね』
姉さんが笑った。
『まさか、愛美さん、全然おばさんじゃないです、綺麗なお姉さんですよ』
『さすが、ハーフね、女性を喜ばせることも上手なのね。本当にありがとう、2人とも。一緒に付き合わせるのは申し訳ないけど、1人より3人の方が楽しそうだし、よろしくお願いします』
姉さんが、ユウと僕に頭を下げた。
ユウの優しい笑顔に、姉さんもどこか嬉しそうだった。
なんだか、少し苦しくなった。
一緒に出かけられるのに、何で?
あまり考えないようにしよう、ユウに悪気はないんだから。
姉さんのいい思い出になるように、僕が姉さんを楽しませてあげなきゃいけないんだから。