最近の僕は…気がつけばため息ばかりついている。


何気なしにふと空を 見上げる…


とても綺麗な空だ。


吸い込まれそうな程、真っ青な空。


なのに、僕はまた、ため息をつく。


まるで、毎日、背中に重たい荷物を背負っているみたいだ。


僕はこの先も、ずっとこんな気持ちのまま、進み続けなければならないのか…


『あなたが好きです。ずっと一緒にいたい』


そんなふうに言えたなら、どんなに楽だろう。


言える訳ないよ。


もう、どうしようもなく…


この人生を恨んでいる自分がいる。


どうしようもなく…












今までの人生、僕は、それなりにやりこなしてきた。

21年間を振り返ってみても、特に大きなトラブルもなく、順調に過ごしてきたと思う。

僕は…きっと、いわゆる優等生…だったのかも知れない。

小学生の頃から高校まで続けていたサッカーは、ずっとレギュラー。

友達も多く、成績も良かった。

女子からもらうバレンタインのチョコの数も、学年で一番…だったように思う。

正直、大きな挫折は1度もない。


それが良かったのか悪かったのか…


ただ、今の自分には、過去のことなんてどうでもよかった。

僕は、順風満帆な人生を、なんの意味もないようにさえ感じていたんだ。










僕は、決して入ってはいけない場所に入りこんでしまった。


でも、ここからは…


もう出られない…


こんなにも…


誰かを愛してしまったら…


後戻りは、絶対に、出来ない。


僕は…


この迷いの中で、もがき苦しむ事しか出来ないんだ。





『おはよう』

『行ってきます』

元気な朝の挨拶が飛び交う新興住宅街。

隣との間がゆったりと取られた、オフホワイトの家が立ち並ぶ。

綺麗に植えられた花壇の花や、爽やかに揺れる木々。

春の朝の優しい光が、それらに降り注いでいる。

自転車に乗った僕は、その中にある1軒の家を目指して走っている。

毎朝の日課だ。

小さな子供たちにぶつからないように気をつけながら、知った顔の人には愛想よく頭をさげた。

ついた…

自転車を止めて、一呼吸。


姉さんに…


今日も会える。







ピンポン

チャイムは一応、鳴らす。

ドアが開く。

『おはよう、今日もいい天気だね』

いつもの声。

優しい声だ。

『おはよう、うん、風が気持ちいいね』

風の事なんて、本当はどうでも良かったんだけど。

『入って。今日は凌馬(りょうま)君の好きなサンドイッチにしたから』


姉さん…


僕は、その笑顔に…


たまらなく惹かれてしまうんだ…








玄関には、天窓から明るい日差しが差し込んでいる。

リビングはとても広い、奥のキッチンで姉さんは朝食の準備。

リビングもキッチンも、決して派手ではない、シンプルだけど姉さんの趣味の良さがうかがえる、とても居心地のよい場所だ。

ダイニングテーブルに腰かけると、兄さんが2階から降りて来た。

『おはようございます』

姉さんは、年上の兄さんに対して敬語で挨拶をする。

『ああ、おはよう。凌馬、相変わらず早いな』

『兄さんおはよう』

『お前、もう3回生だろ、ちゃんと就職は考えてるのか?』

まるで父親みたいな言い草だ。

『いきなりだな』

でも、仕方ない。

兄さんは、僕より19歳も年上なんだから…