「陽菜ー!今日こそは合コン行くよ」

「んー、パス。バイト」

「嘘ばっかり!!陽菜のシフトに合わせて今日、計画したんだからねっ!!もういい加減、観念してよね!!素敵な出会いありの誕生日にするよ!!」

あれから4年。

私は大学2年生、今日で20歳になる。

あれから恋はもうしていない。

相変わらず、お姉ちゃんと楓に祝ってもらってる誕生日は、日にちをずらされ始めた。

それは去年の19歳の誕生日。

『陽菜、当日は自由にしてあげるからね!』

『え、別にいいよ』

『ダメー。誰よりも先に陽菜の誕生日を祝いたいの』

お姉ちゃんは、あえて何も言わない。

でも本当は分かっている。

4年前のあの時から、私が恋をしていないこと。

何も言わないけれど、誕生日にメッセージカードをつけてくれるようになった。

"陽菜、17歳おめでとう。陽菜は自慢の妹だよ!自信持ってね。澪とついでの楓より"

"陽菜!!18歳おめでとう。ちょっと大人の仲間入り。大人の先輩、澪とおじさんの楓より"

"陽菜、10代最後の年。今しかできないことをたくさん経験してね。陽菜が大好きな澪と楓より"

そして昨日、お姉ちゃんのメッセージは、きっとこの4年間ずっと言いたかったんだと思う、想いが詰まっていた。

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陽菜、20歳おめでとう。

傷ついた恋、そろそろ忘れてもいいんじゃない?

大人になった陽菜にあえて言うね。

男はみんな同じじゃないよ!

ちゃんと目を凝らして見てみれば誰が運命の人なのか、わかるよ。

今年は恋をしてほしい。

陽菜にもう一度…恋をしてほしい。

前に進んでほしい。

陽菜は傷ついた分、誰よりも魅力的で、誰よりも優しくて、誰よりも素敵な恋ができるはずだから。

陽菜を大好きな澪より

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そして、楓からのメッセージ。

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陽菜、おめでとう。

澪のこと、そろそろもらおうと思うんだけどいいかな?

あ、澪にはまだ内緒な。

陽菜にもそんな相手が現れることを、願っています。

もうすぐ兄の楓より

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2人のメッセージは、愛で溢れすぎていて温かい。

こんな恋ができるなら…と少しだけ思う。

そんな時、浮かぶ16歳の誕生日の青すぎる空。

その青さが鮮やかだった分、自分の心の影がよりはっきりと、映し出される。

お姉ちゃんも、もう31歳になった。

もうすぐかな…なんで思い続けて、もうかなり時間が経っている。

一度だけ、お姉ちゃんに聞いたことがある。

『ねぇ、お姉ちゃんは楓と結婚しないの?』

『うーん、いつかはするんじゃない?』

『早くしたいとは思わないの?』

『したいときにするかな?どうせ、ずっと一緒にいるだろうし』

揺るぎない恋ってあるのかな?

信じてみたいけど、信じられない。

お姉ちゃんにお手本を見せてほしい。

この4年間、一度もチャンスがなかったわけではない。

高校の時も、大学に入ってからも何度か言われた。

"付き合ってください"の言葉。

だけどその言葉を聞いた瞬間、浮かぶ言葉。

『正直…陽菜、重い』

私は多分、そんな恋しかできない。

重くない恋ができない。

好きになったら、ずっと好きでいたいと思う。

ずっと好きでいてほしいと思う。

だから…

きっとまた同じことを言われる。

もう傷つきたくない。

そして何より、恋は失うものの方が多いから。

「はい、陽菜。これ今日の合コンの場所。18時に陽菜の分も予約してるからね。来なかったら、陽菜の飲み放題、食べ放題の料金、みんなが負担しなきゃいけなくなるんだからねっ!」

「え!ちょっと、あかり!!」

「しーらないっ」

友達が私の分を負担…

あかりは私の性格を知っている。

絶対に断れない理由をつけて、あかりは逃げた。

あかりの作戦に負けて、来てしまった…。

お店の前で迷っていると、男の子二人連れが来た。

「あ!陽菜ちゃんだ」

誰っ!?

「今日、俺ら合コンの相手。理工学部の佐々木と山口。よろしくね」

そう言って、手をぐいぐい引かれてお店に連れ込まれた。

「陽菜ー!偉いっ。ちゃんと来たね」

さっきまでとは全く違う、ふわふわとヒラヒラした服を着ているみんな。

あかりだけがさっきと同じ服だった。

良かった…。

ていうか、合コンって着替えなきゃいけないの??

あかりの横に座って耳打ちした。

「あかり、みんなどうしたの?可愛い服に着替えてる!!」

「はは、気合入ってるんだよ?」

「私、普段着だけどいいのかな?」

「全然いいよ!!陽菜はいつもオシャレなんだから」

「あかりは?」

「私は、今日は陽菜の保護者なんだから、これでいいの」

正面に座っているあかりの彼氏、理工学部の松本君が笑っていた。

思い出す…あかりと親友になった日。

私はあの日以来、恋だけではなく本当の友達も作るのが怖かった。

大学1年生になって、あかりに出会った。

一緒の学部で一緒のサークル。

その為、一緒にいる時間が増えた。

授業はもちろん、お昼の学食もほとんど一緒に食べた。

大学から駅までの道のりで、寄り道して甘いものを食べたり、カラオケに行ったりした。

半年ぐらい過ぎた頃、あかりが少し寂しそうに言った。

『陽菜…私のこと、友達だと思ってる?』

『え?思ってるよ』

『私は、陽菜のこと親友だと思ってる。でも…いつも相談とかするのは、私ばっかり。好きな人のことも…』

『…ごめんね、あかり』

無意識にあかりのことを、傷つけていたのかもしれないと思うと、とても辛くなった。

だから、あかりには言えそうな気がした。

本当は、樹くんと美月のこと、知らない誰かに少し聞いて欲しかった。

これまで、誰にも言わなかった出来事。

『私…本当は少し怖いの。大事な友達を作ること…恋をすること。ごめんね、あかりのこと好きになればなるほど、怖いの…』

あかりは口を挟むことなく、時々途切れてしまう私の言葉を、全部飲み込むようにじっと聞いてくれた。

あの日恋をしたことも、結ばれたことも。

悲しくて、青い空を見たことも。

全部、失った日のことも。

それからずっと、恋をやめたことも…

本当はもう、大好きになってしまっているあかりだから言えた。

全部聞き終わった後、あかりは優しく抱きしめてくれた。

3年分の涙が、溢れるように止まらなく流れた。

でも、あかりの方がはるかに、たくさんの涙を流していた。

『ごめんね、陽菜。嫌なことを思い出させて』

『ううん。なんだか…聞いてもらえて、少し気持ちが軽くなった』

消えることのない傷。

だけど、聞いてもらえるだけで本当に、少しだけ絆創膏を外してみても、大丈夫な気がした。

あかりが涙を拭いて、少し照れたように話始めた。

『陽菜…私、同じサークルの松本くんのことが好きなんだ』

『はは、今更!今まで散々言ってたじゃん』

『陽菜は松本くんのこと、どう思う?』

『え?うーん、いい人だと思うよ。優しいし、面白しね。私は好きだよ』

『恋の"好き"じゃないよね?』

『え!もちろん。人としてだよ』

『じゃあ、一緒に来て』

あかりは私の手を引いて、理工学部に向かった。

松本くんの姿を見つけると、私の手を握ったまま、松本くんを呼び出した。

『松本くん…私、松本くんのこと好き』

ビックリして、私と松本くんの目が合った。

『え…?あ…俺も…あかりちゃんのこと』

少しドギマギしている松本くん。

それ以上に驚いている私を気にすることもなく、あかりが言葉を続けた。

『私と…付き合ってくださいっ』

『え…うん』

『う、嘘!?本当に!?な、何で!!陽菜の方が可愛いじゃんっ』

松本くんと私は、吹き出してしまった。

私の手を握ったまま告白をして、その返事にビックリしているあかり。

『いや、陽菜ちゃんは可愛いけど…。俺はあかりちゃんがタイプで、あかりちゃんが好き。陽菜ちゃんには失礼な言い方だけど、俺はあかりちゃんが可愛い』

温かい松本くんと、可愛いあかり。

あかりの為に、はっきり言う松本くんもカッコ良くて、人として好きだなと思った。

恋っていいな…

なんて、思わずにはいられなかった。

あかりは涙をぐっと拭いて、松本くんに言った。

『それから私、陽菜のこと大好きなの』

『え?ああ、知ってるよ。いつも仲良いよね』

『だから、陽菜のこと友達として好きでいて。恋しないって約束して』

小指を松本くんに差し出したあかりが、可愛すぎて、優しすぎて…本当に大好きだと思った。

照れたままの松本くんと、指切りしながらあかりが言った。

『松本くんと陽菜も、今日から親友』

『え!?』

『親友だよ!!』

『え…うん。いや、俺こそあかりちゃんが彼女で、陽菜ちゃんが親友って嬉しすぎる』

2人の指切りが涙で霞ながら、私の小指を差し出した。

『陽菜、私これから先、松本くん以外好きにならないから』

ギュッと握りしめたあかりの手の暖かさを、今でもはっきりと覚えている。

恋はできなくても、親友ができた。

もう、それだけでいいと思った。

それくらい、温かく私を包んでくれたあかりの気持ち。

親友になってくれて、新しい親友も作ってくれた。

あの日、ポッカリと空いてしまった私の心の中に"親友"という、2人が温かく入ってきた。

それからは、3人で過ごすことが多くなった。

旅行にもお邪魔虫だけど、一緒に行ったり。

サークルの合宿に行ったり。

朝まで一人暮らしの、松本くんの部屋で飲み明かしたり。

松本くんはお酒を飲むたびに、

『陽菜ちゃんのおかげで、あかりが大胆告白をしてくれた』

と嬉しそうに笑って言ってくれる。

私の親友、あかりと松本くん。

そんな2人が仕組んだ、今日の合コン。

気持ちは嬉しいけれど、気乗りはしなかった…。

でも、2人の気持ちに応えたくて頑張ろうと思った。