部活を終えて家に帰ると、クラッカーが鳴り響いた。

古い…

こんなことをするのは、お姉ちゃんしかいない。

「陽菜!16歳の誕生日、おめでとうー!!」

その美人すぎる容姿からは想像もつかない、こういう優しくて少し時代遅れのことが好きなお姉ちゃん。

今は家を出て、大学の頃からの彼氏と同棲をしている。

「陽菜、おめでとう」

お姉ちゃんと同じ年で、お姉ちゃんの綺麗な顔立ちに初めて、隣に並んでも存在がかき消されなかった彼氏も、お祝いの言葉をくれた。

山田楓。

もう、7年も前から付き合っている彼氏。

私がランドセルをまだ背負っていた頃から、付き合っていた。

「楓、ありがとう」

子供の頃、お姉ちゃんが"楓"と呼んでいるのを見て、私もそう呼んでいる。

今考えると失礼だけど、もう今更変えられない。

「はは、こう見ると澪おばさんだな」

「何よ!ヒドイ!!ま、陽菜とは11歳も離れているからね。もうー可愛くてたまらないっ!!」

お姉ちゃんは今、27歳。

11歳年上のお姉ちゃん。

楓とその友達たちが興した会社の、社長秘書をしている。

「陽菜、はい。楓と私からのプレゼント」

そう言って手渡されたものは、とても小さい箱。

去年までは、これでもか!!というくらい大きな袋に、いろんなものをたくさん詰めて2人からプレゼントされていた。

「ありがとう」

箱を開けると、小さなキラキラ光る石がついたピアスだった。

「ピアス…」

「今年もぬいぐるみとか、お菓子とかを見ていたら、楓に注意されたの」

「どうして?」

「もう16歳なんだから、それはないだろうって。あはは、そうよね。もう少し大人になって、ピアスを開けたらそれつけてね」

その箱の中身に見とれていると、2人が話始めた。

「澪、良かったな。今日陽菜、ちゃんと早く帰ってきて」

「うん。彼氏に取られちゃうかと思った」

ズキンと胸が痛んだ…

これをつけたら、違う自分になれるじゃないかと思った。

自分の意思をきちんと言える、お姉ちゃんみたいな大人の自分に。

「お姉ちゃん…これつけたい」

「え?」

「つけて」

「え、でも学校は?」

「内緒にするから」

「あはは!!内緒って、つけていたらバレバレでしょ。でも、つけることには反対しないけど」

「は?澪、姉なら注意しろよ。校則違反だろ?」

「オシャレに校則は関係ないから」

「ぶはっ!!なんだそれ」

「ねぇ、つけて」

「陽菜、ちゃんと病院で開けてもらってからつけなさい。最初はなんでも肝心なの。始まりをきちんとしないと、その後危険がたくさんあるから」

「ははー!!澪、説得力ない。校則違反、関係ないって言ったじゃん」

「なーに言ってるの。基本は押さえとけばいいのよ。男と同じで最初が肝心。大事なのは基本。人を傷つけれることと、自分を傷つけることをしなければいいのよ」

「は?なんか嫌だな。当たってる気がするけど、男と同じっていう例え…」

「陽菜、彼氏できたんでしょう?簡単に許しちゃダメだよ」

俯いている私に、察しのいいお姉ちゃんが気づいた。

「陽菜…?」

「おねえ…ちゃん」

「陽菜…」

涙が止まらなくなった。

「楓ごめん。今日は」

「ああ。陽菜、俺帰るな。16歳のお誕生日おめでとう」

楓は優しく肩を叩いて、部屋を出て行った。

2人はなんてお似合いなんだろう。

言葉なんかなくても、分かり合える2人は私の憧れ。

玄関が閉まる音を確認して、肩を抱いてくれているお姉ちゃんが話始めた。

「どうしたの?」

「お姉ちゃん…私」

「うん」

「私…分かんない。樹くん…彼のこと」

「…何かあった?」

「ううん…何にもない。でも、最近…ばっかり」

恥ずかしくて言葉にできないけれど、やっぱりお姉ちゃんは分かってくれた。

「求められてばかりってこと?」

「…うん」

「嫌ならどうして言わないの?嫌って…。それだけのことでしょ?」

「だって!!…怖い。嫌われるのが怖い」

「陽菜…」

そう、理由はただ一つ。

断った瞬間、樹くんの気持ちが離れていくんじゃないかと思ってしまう。

「陽菜の気持ちはよくわかるよ。でも、本当に大切にしたい相手なら、きちんと言わなきゃ。陽菜のこと、分かってもらわなきゃ」

「でも…」

「陽菜の年齢でそうなることって、よくあるのよ。でも、もっと大切なことあるでしょ?」

「大切なこと?」

「抱きしめ合うことは、気持ちを伝える一つの手段にしか過ぎないの。そうすることで、不安な気持ちになってしまうなら、それはハッキリ言って無意味な行為よ」

お姉ちゃんがギュッと、抱きしめてくれた。

それから宥めるように、教えてくれた。

「抱かれることで傷ついたらダメ。幸せになる抱かれ方をしなさい。せっかく女の子に生まれたんだから」

せっかく女の子に生まれた…

ギュッとしてもらえるだけで、幸せを感じられる女の子に生まれた。

大好きな人が、大好きと表現してくれるだけで、幸せになれる。

それなのに…

どうして私は不安なの?

「お姉ちゃんも、楓に断ったことあるの?」

「あるわよ。でも、そんな時は何もせず抱きしめてくれるから、楓のことより一層好きになれるの」

お姉ちゃんが言うと、とても簡単なことのような気がした。

仕事で忙しいお母さんが作ってくれた、誕生日用の豪華なお弁当。

残したおかずを捨てる自分があまりに惨めで、申し訳なくて…

私、何してるんだろう…

そう思った。