彼氏の樹くんと、距離が近くなった夏休みが終わった。

若かった2人に甘すぎる蜜。

何が大切なのか…

何が本当なのか…

甘い蜜が濁りをかけた。

「陽菜、ちょっと来て」

「え?」

新学期に入って2日目。

夏休みの最後の日に会って以来、樹くんがお昼休みに、廊下から私の教室を覗いて誘ってきた。

クラスメイトの女の子が樹くんに注目する。

それくらい目立つ存在。

普通にカッコイイ。

いや、普通以上。

窓際に肘をついて、優しく笑っていた。

1年先輩でサッカー部の樹くんと出会ったのは、入学式。

入学式を終えて、中学生からの親友、美月と校門を出ようとした私の腕を、樹くんが掴んできた。

「可愛い。俺と高校生活、楽しまない?」

「え?」

「サッカー部のマネージャーしない?」

中学生から高校生になったばかりの私にとって、高校生活はキラキラ輝く、夢の世界の宝庫。

どの角度から見ても、カッコイイ先輩。

今までに見てきた、幼い男の子と違って、背も高く、私の腕を掴んでいる手も優しく、ニッコリ笑う表情も、低い声も全部、大人。

惹き込まれない要素はなかった。

それでも部活は、美月と一緒に中学生から続けている、バレー部に入ることを決めていたので断った。

「すみません。部活は決めているんです」

「そっか…じゃあさ」

「…はい」

「俺の彼女にならない?」

そう言った時に、喉仏が動いた。

すごくドキッとして、胸が苦しくなった。

多分、こういうのを一目惚れっていうのだと思う。

「…はい」

「やった」

こうして、私と樹くんは彼氏と彼女になった。

樹くんが、この学校の人気者だと知るまでに、そんなに時間はかからなかった。

女の先輩に呼び出されて、酷い言葉を浴びせられるなんてことは珍しくない。

それでも好きだから、頑張れた。

1学期はサッカー部とバレー部が終わるのをお互いに待ちあって、一緒に帰宅した。

いつも樹くんが遠回り。

その帰り道、何度もキスをした。

優しいキス。

激しいキス。

そして迎えた夏休み。

樹くんの部屋で、私たちは結ばれた。

それから学校で会うのは、今日が初めて。

制服の樹くんにドキドキして、制服の下の私を知られていることが、少し恥ずかしい。

廊下からニッコリ笑ってもう一度、樹くんが言った。

「来て」

「あ、うん」

「美月ちゃん、陽菜借りるね」

「はーい」

一緒にお弁当を食べていた、親友の美月に一言謝った。

「ごめん、美月。ちょっと行ってくる」

「うん」

お弁当の蓋を閉めて、廊下で待っている樹くんのところに駆け寄った。

「どうしたの?」

「やろう」

「え?」

「昼休み余ってるからやろうよ」

「え…何を?」

「決まってんだろ」

樹くんが私の手をぐいぐい引っ張って歩きだす。

「樹…くん?」

休み時間で賑わう校舎を抜けて、非常階段へ出た。

「樹くん?」

「やっぱ、ここだよな。陽菜…好き」

振り返るなりキスをされて、階段に腰を下ろした。

深い…キスに変わる。

何…?

短く、その行為へと続くためだけにしたと思われるキスが終わって、太ももを撫で始めた樹くんの手を掴んだ。

「ちょ…樹くん?何するの?」

「はは、決まってんだろ」

優しく笑った樹くんの唇は、私の唇ではなく、首筋に落ちた。

「や…やだ」

「可愛い、陽菜」

嫌だと思うのに、撫でられるその指先の感覚に抵抗できず、流され始める。

「やぁ…樹くん」

「はは。陽菜、言葉と身体…違う動きしてる」

夏休みに甘い感覚を知ってしまった私の身体が、受け入れるために潤い始めていた。