わたし、あんなキスしてもらったこと、ないよ。



「彼女さん、いつか怒って、あんたのこと刺しちゃうかもね?」



「こわー」



棒読みなその調子から、わたしの必要のなさがグサグサ伝わってきて、どうしようもなく泣けてきた。



あのとき、カフェで出会えて、奇跡だったと、運命だったと思っていたのは、わたしだけだった。



バカみたい。勝手に舞い上がって、勝手にキスができたって笑ってて。



いくつ思い出をふりかえっても、数が増えるわけでもないのに。



その場から逃げるように走って、自宅へと向かう。



玄関についたときには呼吸が乱れていたし、涙でほっぺたがべたべたしてた。