「……弥依彦はどうしたの」
「貴女が知る事ではございませんよ」
咄嗟に、弥依彦がハヤセミの手によって殺されたのだと分かった
(こわ、い)
突如目の前のハヤセミと言う男が、とてつもなく恐ろしくなった。
さも害の無いように微笑んでいるハヤセミが、同じ人間なはずなのに、何か正体を隠している物の怪のようにしか思えなかった。
逆らえば間違いなく殺される。
否、もう同じ空間に居るだけで呆気なく殺されてしまうような感覚に陥った。
(絶対に殺される)
弥依彦を殺したのと同じくらいの気軽さで、私はこの男に殺されるのだ。
「っ、」
カヤは咄嗟に寝台を飛び降りて、脱兎のごとく窓に走った。
以前、あの窓から外に出て崖を伝った事を思い出したのだ。
しかし、動揺していたカヤは気が付かなかった。
「嘘っ……」
かつては開け放たれていた窓を冷たく覆っている鉄格子に。
「なんでっ、こんなもの……!」
ガシャン、ガシャン!と必死に鉄格子を揺らすが、しっかりと固定されているそれは、びくともしない。
こんなもの、前まで無かったのに。
どうしても逃げたいのに。逃げなくちゃ殺されるのに!
「ご安心下さい」
「ひっ」
ポン、と優しく肩に置かれた手に、カヤは潰れた悲鳴を上げた。
「クンリク様がまた何処かへ行ってしまわれぬように、万全の施しを行っておりますので」
ゆったりと目の前で微笑んだハヤセミを見た瞬間、膝がカクン、と抜けた。
そのままズルズルと崩れ落ちたカヤは、力無く床に座り込む。
「兄上」
何も考えられなくなってしまった脳内に、そんなミナトの声が届いてきた。
「琥珀はまだ混乱しているでしょうから、どうか今は休息を取らせてやって頂けませんか」
「ああ、良いだろう」
のろのろと顔を上げれば、ハヤセミがカヤから離れて部屋の出口へと向かっていくのが見えた。
その背中がミナトと正に今すれ違うと言う所で、ハヤセミの口から、ふっ、と確かな笑いが漏れた。
「良かったじゃないか。お姫様が戻って来て」
ポン、と親し気にミナトの肩を叩き、ハヤセミは出て行く。
憎いと言う感情しか持てない背中が出て行った出口を、呆然自失状態で見つめていた。
そんなカヤを気遣わし気に見ながら、ミナトが近づいてくる。
項垂れているカヤに、ゆっくりと傷だらけの指が伸びてきた。
「琥珀。そこは冷えるから、寝台に戻れ……」
「触らないで!」
バシッ―――と反射的にミナトを振り払った瞬間、衝撃のあまり奥深くまで沈み切っていた感情が、あっという間に浮上してきた。
「ど、してっ……どうして私を、また、此処にっ……」
濁流のように憎悪が溢れ出して、次から次に頬を伝っていく。
「貴女が知る事ではございませんよ」
咄嗟に、弥依彦がハヤセミの手によって殺されたのだと分かった
(こわ、い)
突如目の前のハヤセミと言う男が、とてつもなく恐ろしくなった。
さも害の無いように微笑んでいるハヤセミが、同じ人間なはずなのに、何か正体を隠している物の怪のようにしか思えなかった。
逆らえば間違いなく殺される。
否、もう同じ空間に居るだけで呆気なく殺されてしまうような感覚に陥った。
(絶対に殺される)
弥依彦を殺したのと同じくらいの気軽さで、私はこの男に殺されるのだ。
「っ、」
カヤは咄嗟に寝台を飛び降りて、脱兎のごとく窓に走った。
以前、あの窓から外に出て崖を伝った事を思い出したのだ。
しかし、動揺していたカヤは気が付かなかった。
「嘘っ……」
かつては開け放たれていた窓を冷たく覆っている鉄格子に。
「なんでっ、こんなもの……!」
ガシャン、ガシャン!と必死に鉄格子を揺らすが、しっかりと固定されているそれは、びくともしない。
こんなもの、前まで無かったのに。
どうしても逃げたいのに。逃げなくちゃ殺されるのに!
「ご安心下さい」
「ひっ」
ポン、と優しく肩に置かれた手に、カヤは潰れた悲鳴を上げた。
「クンリク様がまた何処かへ行ってしまわれぬように、万全の施しを行っておりますので」
ゆったりと目の前で微笑んだハヤセミを見た瞬間、膝がカクン、と抜けた。
そのままズルズルと崩れ落ちたカヤは、力無く床に座り込む。
「兄上」
何も考えられなくなってしまった脳内に、そんなミナトの声が届いてきた。
「琥珀はまだ混乱しているでしょうから、どうか今は休息を取らせてやって頂けませんか」
「ああ、良いだろう」
のろのろと顔を上げれば、ハヤセミがカヤから離れて部屋の出口へと向かっていくのが見えた。
その背中がミナトと正に今すれ違うと言う所で、ハヤセミの口から、ふっ、と確かな笑いが漏れた。
「良かったじゃないか。お姫様が戻って来て」
ポン、と親し気にミナトの肩を叩き、ハヤセミは出て行く。
憎いと言う感情しか持てない背中が出て行った出口を、呆然自失状態で見つめていた。
そんなカヤを気遣わし気に見ながら、ミナトが近づいてくる。
項垂れているカヤに、ゆっくりと傷だらけの指が伸びてきた。
「琥珀。そこは冷えるから、寝台に戻れ……」
「触らないで!」
バシッ―――と反射的にミナトを振り払った瞬間、衝撃のあまり奥深くまで沈み切っていた感情が、あっという間に浮上してきた。
「ど、してっ……どうして私を、また、此処にっ……」
濁流のように憎悪が溢れ出して、次から次に頬を伝っていく。