ディアナは自分でも気づかず、両方のこぶしを手のひらに、細い三日月形の爪のあとがつくほど、強く握り締めていた。

「その町は、整備されていてとても美しいんだけど、あまり人が外を歩いてないんだ。歩いていても、皆忙しそうに急いで行ってしまう。人々は、いつもうつむきかげんで、他人とあまり目をあわせようとしない。通りに面した店もたいていは戸を閉めてる。僕は気になって、通りがかりのおじいさんに聞いてみたんだ。すると、おじいさんは怯えたような顔をして、「助けてくれ!わしは何も知らんよ!」って、叫ぶように言って、転がるようにその場を去って行った。なんだか、僕はこの不思議な国のことがものすごく知りたくなってしまった。だけど、どうしたら調べることが出来るのか、僕にはさっぱりわからなかった。僕は、町の中で出会う色々な人に尋ねてみたんだ。だけど、僕が話しかけると、みんなあのおじいさんのように恐ろしそうな顔をしたり、びっくりしたような顔をしたりして、足早に立ち去ってしまうんだ。かぶっている帽子を深くかぶり直して、僕に一瞥もくれずに歩いていく人もいた。
 そこへ、僕と同じくらいの年の少年が通りかかったんだ。その子はあわてていて、後ろを振り返りながら飛んでいた。何かから逃げてるみたいだった。僕が声をかけると、驚いたような顔をして僕を見つめていたけど、ぼくが話そうとすると、『シッ!』と声を殺して言って、ぼくの手首をつかんで、建物の影に連れて行った。その子は、早いスピードで飛んでいたわけでもなかったのに、ファンガスという子鬼に捕まりそうになっていて逃げている所だって言うんだ。その子は、この町がトルトワという名前だと教えてくれた。そしてトルトワでは今、悪者の力が強くなって、さっき言った子鬼や、恐ろしい大きな鳥がその悪の手先としてはばを効かせていて、住民たちはとっても恐れながら暮らしているということも教えてくれた。その子はぼくにも気をつけるように言うと、その場を去っていった…