ディアナの、閉じた目の奥に、ドームの中の人々が飛び回っている様子が見えてきた。

人々は、飛ぶ能力があるのか、空中に浮かんでいる。

もっと上のほうには、何か翼のある大きな鳥のような生き物に乗って空を滑空している者の姿も見えた。

ディアナの目の奥に現れた光景は、ディアナを、なんともいえない、物悲しい、胸が痛くなる、それでいてうきうきさせるような不思議な気分にさせた。

それは、長いこと知っていたのに、どういうわけか、今まで忘れていた大切なものを思い出したときの感覚に似ていた。 

「気がつくと、僕は竜になって空を飛んでた。見下ろすと、僕の家が小さく見えた。そして、僕は悠々と空を旋回して回った。自由に動けるのって、空を飛ぶのって、なんて気持ちがいいんだろう、って思った。ぼくは、得意になって大声で笑いながら、何よりも高く上がって行った。人々や家や道なんかかが見えないくらい小さくなったとき、遠くの険しい山々の向こうに、大きな湖が見えたんだ。その湖は見たこともないような、美しい緑色をしていた。大きくて、透明で、澄んでいて、とてつもなく深そうだった。言葉で言い表せないほど美しいけれど、なんとなく、恐ろしい感じのする、でも、えもいわれない魅力を湛えた湖だった。僕は、その湖に目をうばわれながら、飛んでいった」

雪をかぶった険しい山々、緑色の大きくて美しい湖、その底にうつる黒くて大きな影……ディアナの頭の中に、これらの風景が次々と浮かんでは消える。

「竜になった僕は、どこに向かって飛んでいるのか、確信があった。僕は、湖が見えなくなってからも、一つの方向に向かってぐいぐい風を切りながら飛んでった。そして、僕は本の中に見た、あのドームに囲まれた大きな町に着いたんだ」

「僕は、街に入っていった。気がつくと、僕は人間の姿に戻ってた。この町の人間は、さっき本の中で見たように、こちらの世界とは違って、歩くことも飛ぶことも出来るみたいだった。僕はこの町に入った途端に、歩けるようになった。そして、竜の姿をしていないときでも自由に飛ぶこともできた。僕にはそれがうれしくてうれしくて、町の中をわくわくしながら散策して回った。でも、町の中で自由に飛び回ることに慣れてくると、僕は、この町の人々の暗い表情に気がついたんだ。」