見上げる空は、ただ蒼く

少し前に、クラスメートから
そこの話を聞いたことがあった。

『黒鷺の崖で自殺すると、
自分の犯した罪を償えるらしいぜ。』

そのときは罪ってなんだよって
思ったし興味がなさすぎて
そのまま話題をスルーしたけれど、

よく考えてみれば人を殺したやつが
自殺することで罪を償うのは
正しいことなんじゃないのかと思った。

俺は結乃を殺したんだ。

死んで償うべき罪がある。

頭の中でいろいろなことを
考えながら走っているうちに、
気付けば崖についていた。

誰も居ないことに安堵しながら
ゆっくりと崖の淵へ歩みを進める。

1歩歩く度に、結乃との
たくさんの思い出が蘇った。

高い声、澄んだ瞳。

純粋無垢な明るい笑顔。

その全てが好きだったんだ。

崖の淵に立つ。
下を覗きこむとくらりと目眩がした。

この高さからとべば、
俺は真っ逆さまに落ちて
確実に死ねる。

「好きだった。ごめんね。」

最後の1歩を踏み出そうとしたとき。









「待ってよ!」







愛しい君の声がした。
結乃は俺の隣まで来ると
ぎゅっと俺の手を握った。

「私はここにいるよ。」

「嘘、だろ。」

ふわりとした笑みが俺に向けられる。

「もう2度と離さない。」

「もう2度と離れないよ。」

お互いの手を固く握り合う。

「全部、終わりにしようか。」

「そうだね。」


深く息を吸い込む。


「「病めるときも、

健やかなるときも、

死して尚、君の傍に。」」






2人の影が、蒼に、溶けた。
生命とは、不思議なものだ。

生まれ落ち、時を経て
やがて死に絶えていく。

輪廻転生。

崖を落ちていく2人の影が、
蒼い空に映し出される。

運命が2人を引き裂くその日まで。

私は奏と共に歩み続けるんだ。

「好きだよ。」

死ぬ直前に見上げた空は......








  蒼く蒼く、澄みきっていた。


               Fin.
番外編









『優しさ故に君を』

















SIDE葉音
「今回のビーツ文庫大賞は
佐々木葉音さんの
『優しさ故に君を。』です。

佐々木さん、壇上にどうぞ。
受賞についてひと言お願いします。」

少し緊張しながら壇上にあがる。
手のひらが少し汗ばんでいた。

壇上にあがって頭を下げる。

「このたびのビーツ文庫大賞作品
『優しさ故に君を。』を書いた
佐々木葉音です。」

軽く自己紹介をすると、
司会が私に話題を振った。

「佐々木さん、この作品に
込めた想いを教えていただけますか。
かなりの衝撃作でしたが。」

衝撃作、か。

世間の人はそう捉えるかも
しれないけれど、私にとっては
大切な、大切な作品だ。
マイクを握り直し、口を開く。

「私が高校1年生のとき、
大好きだった友人を
2人同時に亡くしました。

死因は事故ではありません。

2人は自ら、死を選択しました。

黒鷺の崖で起きた若い男女の
心中を、皆さんは覚えていますか。

あのときに亡くなったのは
私の友人でした。」

客席にざわめきが走る。

そりゃあそうかもしれない。

黒鷺の崖の男女心中事件は、
余りにも有名すぎるから。

結乃と奏が死んだ。

それは、世間で大きな
ニュースになったんだ。

この時代に高校生の
心中なんて本当に珍しい。

各メディアが2人の心中を
報道し、その原因を探った。
メディアの調査や報道で、
いろいろなことが明るみに出た。

結乃の母親の虐待。

奏の父親の強要罪。

どうやって情報を掴んだのか
分からなくて驚いたけど、

凜と璃依の双子が入れ替わって
学校に通っていたことや

璃依が結乃をいじめていたことまで
報道され、世に出回った。

「この『優しさ故に君を。』という
作品は、あのときの事件で
亡くなった2人に贈ります。

この物語の主人公は、
私にとっては結乃と奏です。

大好きだった友人の面影を
残したくて筆を執った。

友への変わらぬ愛と感謝。

それが作品に込めた想いです。」
言い終えて、深く頭を下げる。

場がシラケたらどうしよう。

頭を下げたまま静止していると
会場が暖かい拍手に包まれた。

顔をあげるとたくさんの人が
立ち上がって拍手をしている。

零れそうになる涙を指先で
そっと拭う。


結乃、奏。

私の前に広がるこの光景を、
どんな風に見てる?

2人の思い、伝わってるよ。

こんなにたくさんの人に。

結乃と奏が死んじゃってから、
もう数年が経ったね。

凜とは今でもたまに
いっしょに出掛けたりするよ。

2人で、結乃と奏のことを
思い出したりするの。

ねぇ。

あの日の2人の死を、
絶対に無駄にはしないから。

これからも、見守っててね。

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