見上げる空は、ただ蒼く

「え、どうして?」

ただ俺の仮説が間違っていたって
だけなんじゃない?と言いたげな
目で見られて苦笑する。

「凜は犯人を庇ってるんだよ。
偵察したのは凜かもしれないけど、
靴箱に紙を置いて屋上にラジオを
置いたのはアイツじゃない。だって
凜は学校に来てなかったんだから。」

あいつにも複雑な事情はある。

結乃に忘れられて、自暴自棄になって
傷付けたくなったのかもしれない。

でも。

『これ、私の宝物。』

かつて、凜がそう言って俺に
見せてくれたのは小さい頃の結乃が
凜にあてて書いた手紙だった。

あれは確か、中1の頃だ。

凜は例えいじめをしたとしても、
結乃を本気で自殺に追い込むような
マネはしないはず。

これは1種の賭け。
俺は、凜が単独犯じゃないと信じる。
葉音が突然スマホを取り出して
電話をかけ始めた。

「誰にかけてんの?」

と困惑しながら尋ねると、ため息を
つきながら彼女は言う。

「決まってるじゃん。凜から直接
真相を聞き出すの。それが1番早く
真相を知る方法だからしょうがない。
私は真実を知りたいの。」

閑静な住宅街に響く電話の呼び出し音。
凜、気づいてくれんのかな。

心配になった矢先、葉音のスマホから
凜の嫌そうな声が聞こえた。

「なに、急に電話かけてきてさ。
どういうつもりなの?」

「凜、奏ん家からあの古いラジオ
盗った犯人なんでしょ?」

「そうだけど、何か問題ある?」

「ラジオって何色なの?」

「銀でしょ。」

それを聞いた瞬間、葉音はにやりと
詐欺師のような笑みを浮かべた。

「残念。あのラジオは茶色だよ。」
「はっ?!」

そう言って凜は黙り込む。

「私と奏、今2人で奏の家の
近くの公園にいるからすぐ来て。
早く来てよ、それじゃあ。」

葉音は言うことだけ言って
電話を切ると俺にニッと笑いかけた。

「犯人が誰なのか凜に吐かせるよ。
凜じゃないなら誰がやったのか
私はそれが知りたいし、犯人に
なんでこんなことしたのか
聞きたいって気持ちもあるから。」

「...そうだな。俺も知りたいよ、
結乃を傷つける理由。
早く公園に行こう。真実を知る時が
もうすぐそこに迫ってきてるよ。」




2人で、歩きだす。








誰も知らない真実へと。
葉音から急に連絡がきた。

「ラジオの色は何色?」

そう聞かれて混乱する。
なんでそんなこと聞くの?

私、奏に言ったじゃない。

『犯人は私なんだ』って。

もしかして疑ってるのかな。

ラジオ、ラジオ......。
色なんて知る訳ないじゃない。

だってラジオを盗ったのは、
私じゃないんだから。

でも、それを言うわけにはいかない。

『銀でしょ。』

ラジオって普通は銀のはず。
大丈夫、たぶん合ってる。

自分に言い聞かせたそのとき、
少し意地悪な葉音の声が聞こえた。

『残念。あのラジオは茶色だよ。』

私は床に、崩れ落ちた。
『私と奏、今2人で奏の家の
近くの公園にいるからすぐ来て。
早く来てよ、それじゃあ。』

葉音はそれだけ言うと私が
何かを言う間も与えずにぶつりと
電話を切ってしまった。

カタリ。

手から滑り落ちたスマホが
床にぶつかって音を立てる。

どうしよう。

私はあまりにも大きなミスを
犯してしまったんだ。

葉音になんて言えばいい?
どうすれば事実を隠し通せる?

これじゃあ、あの子を守れない。
守れないなら私が嘘ついた
意味はなくなってしまうんだ。

私にとってあの子は
たった1人きりの大切な......




             ××なのに。
「どうする?」

私が尋ねると彼は笑った。
そしていつものように全てを
悟ったような表情で口を開く。

「本当のこと言えば?
あ、その子の電話番号教えてよ。」

その言葉に頷いた。
私は家を出て公園に向かう。

真実を語る、時が来た。
スマホの画面をタップする。

prrrr.prrrr.

呼び出し音のあとに、
純粋無垢な少女の声が聞こえた。

「もしもし?」

その声に、ニヤリと笑う。

「そこに神影 奏さんはいますか?」

まもなく少年は闇に落ちる。




















どこまでも続く地獄の闇に。
奏と公園まで行って、
それからベンチで凜を待った。

「俺は...許せないよ。
結乃は俺の大切な家族なんだ。
結乃を傷付けた奴を許すなんて
どうしても出来ない......。」

隣に座っている奏が拳を
震わせながら小さな声で呟いた。

誰よりもまっすぐに、
結乃だけを想っている奏。

誰よりも素直に、
奏だけを信用してる結乃。

2人の関係を傍でずっと
見守ってきたのは私なんだ。

「許せなくて、いいんじゃない?」

私がそういうと、奏は
驚いたようにこちらを見た。
その目は隈が出来ていて
少しだけ赤く腫れている。

結乃のことを想って
夜中に泣いてたんだろうな。

「結乃を1番傍で大切にしてきたのは
奏なんだから。結乃を傷付けた相手を
許せないと思うのは当たり前。

まぁ、きっと結乃は優しいからそんな
相手でも許しちゃうんだろうけどね。」
「そうだね、結乃は優しいから...。
優しくするのに傷つきやすくて
それを必死で隠してた。アイツは
誰よりもいいやつなんだ。だから
俺は結乃のことが......」

"好きだったんだ "

彼の口がそう動いたのを見たとき、
目の前に人影が現れた。

「言われた通りに来たけど。」

「.........凜。」

私はベンチに座ったままの奏を
ちらりと見てから凜の前に立った。

奏はきっと怖いんだ。

結乃の自殺未遂の真実を知って、
自分を止められなくなるのが。

「真実を、聞かせてよ。」

震える声を押さえながら
凜を睨み付ければ、彼女はどこか
怯えたような表情をしていた。

彼女が、口を開く。






その口から......








真実が、語られるんだ。