「香織ちゃん」
モテそうなハスキーボイスで私の名前を呼びながら、教室に入ってくるひとりの人物。
私はその人を視界に入れて、ため息を吐いた。
「ねぇ、北條先輩またきてるよ!」
「きゃー!かっこいい!」
「今日も背景にバラが見える」
教室内の視線を総なめにして、こちらへ歩み寄って来る。
一年の教室になんて用もないだろうに......彼はほぼ毎日、まるで習慣のように、朝のHRが始まる前にやってきた。
「また来たんですか?」
「うん。香織ちゃんに会いたくて」
胡散臭いほど輝いている満面の笑みに、もう一度ため息が溢れた。
「そんなこと言われても、返事に困ります」
「『私も会いたかったです』って言ってくれたら嬉しいな」
「ありえません!」
「ふふっ、今日もクールだね」
何が面白いのか、微笑む彼に眉をひそめた。
彼の名前は、北條誠司。
一つ年上の二年生で、私が通うこの海風学園の生徒会長。
この学園で、彼を知らない人はいない。
そしてそれは、生徒会長だからという理由だけではない。