子供の頃見た夢を、今も覚えている。
どこかリアルな、優しい香りのする女の子と一緒にいる夢。
心のどこかで、ずっとその人のことを探していた気がする。
どんな女の子から告白されたって、どれだけ魅力的と言われている人と一緒にいたって、何の感情も動かなかった。
この人じゃない。僕が探しているのはこの匂いじゃないと、いつも思っていたんだ。
あの日......
——天使が、舞い降りてくるまでは。
僕には、一ヶ月前から始まった朝の日課がある。
ひとつ年下のクラスである、一年B組へ足を運ぶこと。
あるひとりの、女の子に会いに。
「きゃー!北條先輩!」
「おはようございます!」
廊下を歩いている最中にかけられる声に、笑顔で返事をする。
生徒会長を務めてい ることもあって、挨拶をされることが多い。
「北條先輩!話があるので、少しだけ付いてきてもらっても......」
「ごめんね、行かなきゃいけないところがあるんだ」
たまに引き止められる声をうまく避けて、彼女の元へ。
早く会いたいな......と、頭の中はそればかりだった。
目当てのクラスについて、彼女の姿を探す。
——あ、いた。
僕の瞳が、いつも通り自分の席に座り本を読んでいる彼女の姿を捉えた。