「私、もう少し早く先生に出会っていたかったです」


二つの意味を込めて、そう口にした。


「そうだな、俺も、もう少しお前らに授業したかった」

「いい生徒だったでしょ、私たち」

「ああ。特にお前は秀でて優秀だったな。テストの点数もよかったし」

「頑張りましたもん」


だって、好きな人が教えてくれる教科だったから。

昼休み明けの授業でも寝なかった。

ちゃんと復習して、先生に褒めてもらえるような点数もとった。

最後の期末テストで、解答用紙の裏に、『何か授業の感想等があれば自由に書いてくれたらいい』と言われたから、生徒として書ける限りのラブレターを綴った。

何年たっても、先生が教師生活を終える日が来ても、先生の記憶の片隅に残っていられる生徒でいたかったから。


「岡本先生」

「ん?」

「私、いつか先生みたいな教師になります」

「本当か?嬉しいな、そう言ってもらえると。…そうだ職員会議行くんだった。三崎、気を付けて帰れよ」

「はい、さようなら」


踵を返した先生は、スリッパの独特な摩擦音を鳴らしながら足早に走っていく。